「案」
白川静『常用字解』
「形声。音符は安。案はものをおく台、‘つくえ’ をいう。のち書物をおいて考案すること、考察することに使うので、‘かんがえる’ことを案という」
[考察]
白川漢字学説には形声文字の説明原理がないので、すべて会意的に解釈する。会意的に説明がつかない場合は説明を放棄する。本項ではなぜ「安」なのかの説明がない。ただ音符と逃げている。
我が国の白川以外の漢字学説を見てみよう。
「安は‘宀(やね)+女’の会意文字で、女性を家に落ち着けたさまをあらわす。案は‘木+音符安’の会意兼形声文字で、その上にひじをのせておさえる木のつくえ。按(上から下へとおさえる)―晏(日が上から下へさがる)と同系のことば」(藤堂明保『学研漢和大字典』)
ここにはなぜ「安」なのかの説明がある。安は上から下に押さえる意を含むからというのが藤堂の説。↓の方向に重力が働くと、下のものは上のものを乗せた状態になる。食器を載せる台や、腰を下ろしたり肘を掛ける木の台(床几など)は、そのような形態・機能をもつから、安と同音で・anという。安と案は同源の語である。
藤堂は案の意味の転化を次のように記述している。
①上からおさえて、もたれかかるつくえ。「机案」
②上から下へとおさえる。「案剣」
③あちこちおさえてみることから、よくかんがえる、しらべるの意。 「考案」
白川は「つくえに書物をおいて考案する」の意味が出たというが、案は書物 を読むための机の意味ではない。案と書物は何の関係もない。つくえ→書物をおく→考案するという意味展開はあり得ない。
一般に意味の展開は隠喩・換喩などのレトリックによることが多いが、コアイメージによる展開が漢語意味論の特徴である。
「安」のコアイメージは何か。藤堂の言う通り「上から下に押さえる」である(7「安」を見よ)。動揺・混乱など動きのあるものをある時点・地点で押さえて止めて、じっと落ち着かせるというイメージと言い換えてもよい。動きがあって定まらない物事を把握する場合、それのポイント(要点)や証拠などを押さえ止めて調べることを表す言葉を・anという。これを案と表記するのは、安に「押さえ止める」というイメージがあるからである。もちろん按という表記もありうる。安・案・按は同源関係にある言葉である。
「つくえ」と「よく調べる、考える」という意味は共通のコアイメージで結ばれている。
白川静『常用字解』
「形声。音符は安。案はものをおく台、‘つくえ’ をいう。のち書物をおいて考案すること、考察することに使うので、‘かんがえる’ことを案という」
[考察]
白川漢字学説には形声文字の説明原理がないので、すべて会意的に解釈する。会意的に説明がつかない場合は説明を放棄する。本項ではなぜ「安」なのかの説明がない。ただ音符と逃げている。
我が国の白川以外の漢字学説を見てみよう。
「安は‘宀(やね)+女’の会意文字で、女性を家に落ち着けたさまをあらわす。案は‘木+音符安’の会意兼形声文字で、その上にひじをのせておさえる木のつくえ。按(上から下へとおさえる)―晏(日が上から下へさがる)と同系のことば」(藤堂明保『学研漢和大字典』)
ここにはなぜ「安」なのかの説明がある。安は上から下に押さえる意を含むからというのが藤堂の説。↓の方向に重力が働くと、下のものは上のものを乗せた状態になる。食器を載せる台や、腰を下ろしたり肘を掛ける木の台(床几など)は、そのような形態・機能をもつから、安と同音で・anという。安と案は同源の語である。
藤堂は案の意味の転化を次のように記述している。
①上からおさえて、もたれかかるつくえ。「机案」
②上から下へとおさえる。「案剣」
③あちこちおさえてみることから、よくかんがえる、しらべるの意。 「考案」
白川は「つくえに書物をおいて考案する」の意味が出たというが、案は書物 を読むための机の意味ではない。案と書物は何の関係もない。つくえ→書物をおく→考案するという意味展開はあり得ない。
一般に意味の展開は隠喩・換喩などのレトリックによることが多いが、コアイメージによる展開が漢語意味論の特徴である。
「安」のコアイメージは何か。藤堂の言う通り「上から下に押さえる」である(7「安」を見よ)。動揺・混乱など動きのあるものをある時点・地点で押さえて止めて、じっと落ち着かせるというイメージと言い換えてもよい。動きがあって定まらない物事を把握する場合、それのポイント(要点)や証拠などを押さえ止めて調べることを表す言葉を・anという。これを案と表記するのは、安に「押さえ止める」というイメージがあるからである。もちろん按という表記もありうる。安・案・按は同源関係にある言葉である。
「つくえ」と「よく調べる、考える」という意味は共通のコアイメージで結ばれている。