「憩」

白川静『常用字解』
「形声。もとの字は愒に作り、音符は曷。説文に“愒は息(いこ)ふなり”とあり、“いこう” の意味に用いる。憩は息と舌とを組み合わせた会意の字であるが、古い字の作り方ともみえず、憩は愒の俗字であろう」

[考察]
憩が愒の俗字という説は中国にもあるが、加藤常賢は憩が正字で、愒は後造の字としている(『漢字の起源』)。白川は舌の説明がつかないので(おそらく「した」と見たのであろう)、愒から説明しようとしたが、曷の説明もつかない。結局字源の体をなしていない。
舌は「した」ではなく、括・活・話などの舌と同じで、𠯑の字が変化したものである。これは「穴を開けてスムーズに通す」というイメージを表す記号である(196「括」、197「活」を見よ)。憩は「𠯑カツ(音・イメージ記号)+息(限定符号)」と解析する。これは「鼻から息をスムーズに通してほっとする情景」という図形的意匠になっている。これによって、ほっと一息つく(いこう)の意味をもつ古典漢語k'iad(呉音ではカイ、漢音ではケイ)を表記する。
憩は語史が非常に古く、次の用例がある。
 原文:蔽芾甘棠 勿翦勿敗 召伯所憩
 訓読:蔽芾ヘイハイたる甘棠 翦(き)る勿れ敗る勿れ 召伯の憩ひし所
 翻訳:こんもり陰なすヒメカイドウ 葉を切るな枝を壊すな 召伯様の休んだ所――『詩経』召南・甘棠