「迎」

白川静『常用字解』
「形声。音符は卬。卬は向かい合う人の形である。卬を前後の関係とすると、前方の人を迎えるという意味となる。道を歩くという意味の辵(辶)を加えて、向こうから来る人を“むかえる” ことを迎という」

[考察]
ほぼ妥当な字源説であるが、字形から意味が出てくるような説明に難点がある。言葉という視点が欠けている。
発想を変えよう。言葉から出発して文字の形を考える。
向こうから来るものを出むかえるという意味をもつ古典漢語がngiăng(呉音ではギヤウ、漢音ではゲイ)である。この聴覚記号を視覚記号に切り換えたのが迎という図形である。この言葉は次のような用例がある。
①原文:韓侯取妻 汾王之甥 蹶父之子 韓侯迎止
 訓読:韓侯妻を取(めと)る 汾王の甥 蹶父の子 韓侯迎へたり
 翻訳:韓侯は妻をめとった 汾王のいとこ 蹶父のむすめ 韓侯は迎えに行った――『詩経』大雅・韓奕
②原文:無迎水流。
 訓読:水流を迎ふる無かれ。
 翻訳:上流にある軍に向かって撃って出てはならない――『孫子』行軍

①は出むかえる意味、②は逆方向に向かって行く意味である。むかえるとは→の方向に来るものに対して、←の方向に出て行って会うことである。この行為を表すngiăngという言葉には「逆方向(⇄の形)に行く」というコアイメージがある。このイメージを図形化した記号が卬である。卬は右を向いて立っている人と、左を向いて座っている人を合わせた図形である(374「仰」を見よ)。この意匠によって「逆方向に向かう(⇄の形)」というイメージを表すことができる。「卬ゴウ(音・イメージ記号)+辵(限定符号)」を合わせた迎は、向こうから→の形にやってくるものに対して、こちらから←の形に出向いて行く情景を暗示させる。この図形的意匠によって①の意味をもつngiăngを表記する。「逆方向(⇄の形)に行く」というコアイメージから②の意味が派生するのは見やすい。