「鯨」

白川静『常用字解』
「形声。音符は京。玉篇は鯨の字に“魚の王なり” とある。“くじら”をいう」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく、すべての漢字を会意的に説く特徴がある。しかし本項では京からの説明ができないので、字源を放棄している。
意味は字形から引き出すものではなく、言葉が使用される文脈から判断し把握するものである。意味は言葉に内在する観念である。
古代漢語ではクジラをgiăng(呉音ではギヤウ、漢音ではゲイ)という。これを鯨という視覚記号で表記した。漢代の文献に次の用例がある。
 原文:龍深藏、鯨出見。
 訓読:竜は深く蔵(かく)れ、鯨は出で見(あら)はる。
 翻訳:竜は深い所に隠れ、鯨が姿を現す――『春秋繁露』五行逆順

鯨はどんな意匠をもつ図形か。ここから字源の話になるが、字源は語源も絡む。語源のない字源は半端である。
鯨は「京(音・イメージ記号)+魚(限定符号)」と解析する。京は「大きい」というイメージがある(352「京」を見よ)。「大きい魚」というのが鯨の意匠である。魚はカテゴリーを表示する限定符号である。現代生物学における生物分類は当てはまらないことがある。水中に棲むものは魚のカテゴリーに入れられる。ヨウスコウカワイルカ(鱀)、サンショウウオ(鯢)、ワニ(鰐)、カブトガニ( 鱟)、タコ(鱆)、イカ(鰂)なども魚のカテゴリーである。エビ(鰕・蝦)はもともと魚偏であったが、後に虫偏に変わった。タコは日本では虫偏(蛸)になっている。