「激」

白川静『常用字解』
「形声。音符は敫キョウ。放は方(横にわたした木に死者をつるした形)に攴(打つの意味)を加えて、邪悪な霊を追放する儀礼をいう。白はされこうべの形。されこうべが残っている死者を木につるして殴つ形が敫で、その死者の持つ強い霊の力を殴って刺激することをいう。敫は刺激によってはげしくなるという意味を持っている。その意味を水に移して、激は水が激しく流れるの意味となる」

[考察]
疑問点①横木に死者を吊して殴打する儀礼というものが存在したのだろうか。証拠がないように思う。②放は「死者を殴つ儀礼」で、敫は「されこうべが残っている死者を殴つ」というが、この時間差は何だろうか。なぜされこうべになるまで殴つのか。③敫に「死者の持つ強い霊の力を殴って刺激する」という意味があるのだろうか。これは図形的解釈か。『漢語大字典』では「光が閃耀する」の意味としている。
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。確証のない儀礼を根拠として意味を導こうとする。しかし図形的解釈と意味の区別がはっきりしない。図形的解釈と意味の混同は一般に白川漢字学説の特徴である。
意味とは何か。言葉の意味であることは疑いない。言葉(記号素)は音と意味の結合体というのが言語学の定義であり、意味は言葉に内在する観念である。言葉の意味は文脈で使われる際の使い方である。文脈がなければ意味は捉えようがない。激はどんな文脈で使われているか。
 原文:水激而流渠。
 訓読:水激して渠に流る。
 翻訳:水は勢いを激しくして水路に流れる――『管子』地数

激は水が勢いよくぶつかる意味で使われている。勢いよくはじけるようにはげしい意味はこれの転義である。これらの意味をもつ古典漢語をkek(呉音ではキャク、漢音ではケキ)という。これを代替する視覚記号が激である。
激は「敫(音・イメージ記号)+水(限定符号)」と解析する。敫は「白+放」に分析できる。この意匠は「白い光を四方に放散する情景」である。これによって「中心点から四方に発散する」「四方に分散する」というイメージを表すことができる(実現される意味は上記の『漢語大字典』にある意味)。かくて激の図形的意匠は「水が石などにぶつかって、飛沫が四方に飛び散る情景」である。この意匠によって①の意味をもつ言葉を表記する。