「穴」

白川静『常用字解』
「象形。土室の入り口の形。土室(半地下形式の家)の入り口が穴で、“あな”の意味に用いる」

[考察]
この字源説はほぼ妥当である。「穴は土室なり」は古来の定説である。
古典の次の用例がある。
①原文:陶復陶穴 未有家室
 訓読:復を陶トウし穴を陶す 未だ家室有らず
 翻訳:粘土でねぐらをこしらえた まだ家がなかったとき――『詩経』大雅・緜
②原文:臨其穴 惴惴其慄
 訓読:其の穴に臨み 惴惴ズイズイとして其れ慄(おのの)く
 翻訳:[死者を入れる]穴を見下ろして ぶるぶると身震いした――『詩経』秦風・黄鳥

①は人の住むあな(穴居住宅)の意味、②は土地のくぼんだ所(地中に掘り下げたあな)の意味で使われている。この意味の古典漢語をɦuət(呉音ではグヱチ、漢音ではクヱツ)という。これに対する視覚記号が穴である。穴は人の住む洞穴を描いた図形である。古典では「穴は窟なり」と語源を説いているが、横に掘ったあなでもあるし、縦に掘ったあなでもある。藤堂明保はɦuət という語は壊・毀・鬱・尉などと同源で、「あな・ほる・押し下げる・凹む」という基本義があるという(『漢字語源辞典』)。イメージを図形で表すと⋃の形であるが、視点を変えれば⊂の形にもなる。これらの形のイメージが「あな」という意味を実現させる。