「結」

白川静『常用字解』
「形声。音符は吉。吉は祝詞を入れる器のᆸの上に、小さな鉞の頭部(士の形)を置いて祈りの効果を閉じ込め守ることをいう。吉には閉じ込めるという意味があるが、結ぶということも、そこにある力を閉じ込めるという意味があった」

[考察]
「吉」の解釈の疑問点については305「吉」で指摘してある。
本項では別の疑問がある。「吉」では「祈りの効果を守る」という解釈なのに、本項では「祈りの効果を閉じ込め守る」という解釈になっている。なぜ「閉じ込める」なのか。「吉には閉じ込めるという意味がある」というが、そんな意味はない。閉じ込める→結ぶという意味展開がはっきりしない。なお糸についての言及がない。
字形から意味を求める学説には限界がある。言葉がすっぽり抜け落ちているからである。言葉という視点から改めて見てみよう。結は古典に次の用例がある。
①原文:親結其縭 九十其儀
 訓読:親(みずか)ら其の縭を結び 其の儀を九十にす
 翻訳:自ら[婚約の印の]腰紐を結び [婚礼の]装いを盛んに凝らす――『詩経』豳風・東山
②原文:心如結兮
 訓読:心は結ぶが如し
 翻訳:心は固く引き締まったかのようだ――『詩経』曹風・鳲鳩

①は糸や紐で締めてくくる(むすぶ)の意味、②は固く引き締まる意味で使われている。この意味をもつ古典漢語がket(呉音ではケチ、漢音ではケツ)である。これを代替する視覚記号が結である。結は「吉(音・イメージ記号)+糸(限定符号)」と解析する。吉が言葉の深層構造に関わる重要な記号である。吉は「満ちる」「中身がいっぱい詰まる」というイメージがある(305「吉」を見よ)。ある範囲の空間を想定すると、その空間が何かでいっぱいになっている状態が「満ちる」というイメージである。これは「塞がる」というイメージでもある。また「詰まる」というイメージでもある。物が詰まっている状態から「締まる」というイメージも生まれる。このように「満ちる」「塞がる」「詰まる」は関連のあるイメージであり、そこから「締まる」というイメージに転化すると言える。かくて①の意味をもつketという言葉がなぜ「吉+糸」で図形化されたかが分かる。結は「袋などに物を詰めて、入り口を糸で締める情景」という意匠になっている。ただし図形的意匠は意味と同じではなく、意味は①である。また「満ちる」「詰まる」 のイメージが「固く締まる」「締めくくる」というイメージに転化し、②の意味(凝結・凍結の結)、さらに、締めて一つにまとめる意味(結合・妥結の結)、組み立てて統一体にする意味(結構・結成の結)、物事を締めくくって終わりにする意味(終結の結)などに展開する。