「件」

白川静『常用字解』
「会意。人と牛とを組み合わせた形。唐宋代以後になって使用されている字で、字の構成の意味はわからない。件は“わかつ、物ごとを区別する、くだり” の意味に使う」

[考察]
「字の構成の意味はわからない」として字源を放棄しているが、件の意味は「わかつ」とする。これは『説文解字』などが「件は分なり」としているからであろう。
件は助数漢字(助数詞)として使われる。物事を数えるには、一つ一つ分かれた個物でないと数えられない。件の最初の意味は一つ一つ分かれて数えられる物事という意味であったと考えられる。次の用例がある。
 原文:刻作物件。
 訓読:刻みて物件を作る。
 翻訳:刻んで一つの物件を作った――『博物志』戯術

『博物志』は晋の張華の撰と伝えられる(ただし原本は散佚)。
『旧唐書』では「科目四十四件」や「兵杖数千件」、『旧五代史』では「刑法の勅条二十六件」などの用例がある。これらは助数詞を表す用法で、数えられるものは筋をなして分かれている特徴がある。件という語には「一つ一つと筋をなして分かれる(分ける)」というコアイメージがあると推測される。これを古典漢語ではgiɛn(呉音ではゲン、漢音ではケン)といった。視覚記号としては件が考案された。
「人+牛」はあまりに舌足らず(情報不足)な図形である。「人が牛を分ける」 と解釈するのは俗説。牛は実体としてのウシではなく、何らかの象徴性を付与したのかもしれない。例えば「人+犬」(伏の字)ではイヌの習性を利用している。牛の場合は食材における用途が利用されたと考えられる。牛の肉はさまざまな部位が食用になる。だから牛は「いくつかの部分に分ける」「一つ一つ分ける」というイメージを表すことができる。かくて「牛(イメージ記号)+人(限定符号)」を合わせて、一つ一つ分けられる物事を意味するgiɛnという語を件で表記した。