「券」

白川静『常用字解』
「会意。𠔉は釆(爪のある獣の掌)を両手(廾)で持つ形。これを刀で剖(さ)いて二つに分け、割符とすることを券という。券は“わりふ、証書” の意味に使う」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく、すべて会意的に説く特徴がある。釆(獣の掌を両手で持つ)+刀(かたな)→獣の掌を刀で裂いて二つに分け、割符とする→割符という意味を導く。
獣の掌を二つに裂いて割符にするとはどういうことか。理解に苦しむ。「巻」の項では「釆(爪を含む獣の掌の皮)を両手(廾)で⺋の形に捲きこむ」の意味としており、券と巻の共通点は獣の掌以外にない。
字形から意味を引き出そうとするから、こんな無理な解釈が生まれる。
意味とは言葉の意味であって、字形にあるのではない。字形は意味を暗示させるだけである。言葉の意味を知るには古典の文脈に当たる必要がある。文脈で使われるその使い方が意味である。券は次の用例がある。
 原文:折其券而削其書。
 訓読:其の券を折りて、其の書を削る。
 翻訳:その手形を折って、文字を削った――『管子』軽重丁

券は証拠とするもの(手形・割符)の意味で使われている。この意味の言葉を古典漢語ではk'iuăn(呉音ではコン、漢音ではクヱン)という。これを代替する視覚記号として券が考案された。券は「𠔉+刀」に分析できる。𠔉は[釆+廾](縦に重ねた字形)の変形でケンと読む。𠔉([釆+廾])は握り拳を作る情景であり、拳に含まれている(詳しくは213「巻」を見よ)。握り拳は丸く巻いた形態である。だから𠔉は「〇の形に丸める」「丸く取り巻く」というイメージを示す記号になる。したがって「𠔉ケン(音・イメージ記号)+刀(限定符号)」を合わせた券は、文字を書いた板を二つに割って、それぞれを紐で巻いて保存するもの(手形)を暗示させる。この図形的意匠によって上記の意味をもつk'iuănを表記する。
手形の形態については『釈名』(漢の劉熙の撰)に「券は綣(巻く)なり。相約束し繾綣(巻きつける)して限(期限)と為すなり」と説明している。古人も券と綣(巻)を同源と見ている。