「建」

白川静『常用字解』
「会意。聿は筆。廴は儀礼を行う中廷(中庭)の周囲の壁。中廷に筆を立て、方位や地相を占って都の位置を定める。建はもと測量し、区画し、都の設営をいう字であったようであるが、のち建物をつくることを建設・建築といい、“たてる” の意味となる」

[考察]
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。聿(筆)+廴(中庭の周囲の壁)→中庭に筆を立てて方・地相を占って都の位置を定める→測量し区画して都を設営する→建物をつくる、と意味を展開させる。
「聿(筆)+廴(中庭)」というきわめて舌足らず(情報不足)な図形から、方位・地相の占い、土地の測量・区画、都の設営という情報を読み取る。こんな情報が建に含まれているだろうか。甚だ疑問である。しかも「中廷(中庭)に筆を立てる」ことがなぜ方位・地相の占い、土地の測量・区画になるのか、必然性がない。中廷(中庭)は都が完成した後に造営される場所ではなかろうか。矛盾である。
字形から意味を導く方法は誤りと断じてさしつかえない。というのは意味は言葉に内在する観念であって、字形に属する概念ではないからである。言葉の意味は文脈がないと知りようがない。文脈における言葉の使い方が意味である。建は古典で次のように使われている。
①原文:設此旐矣 建彼旄矣
 訓読:此の旐チョウを設け 彼の旄ボウを建つ
 翻訳:亀と蛇を描いた旗を設け ヤクの尾を飾った旗を立てる――『詩経』小雅・出車
②原文:叔父 建爾元子
 訓読:叔父よ 爾の元子を建てよ
 翻訳:叔父よ あなたの長男を[後継ぎに]に立てなさい――『詩経』魯頌・閟宮

①は崩れない(倒れない)ようにまっすぐ立てる意味、②はしっかりと基礎(国・家・後継ぎ・政策など)をうち立てる意味で使われている。建物を建てる意味は②に含まれる。これらの意味をもつ古典漢語がkiăn(呉音ではコン、漢音ではケン)である。これを代替する視覚記号として建が考案された。
建は「聿(イメージ記号)+廴(限定符号)」と解析する。聿は筆を手で立てている図形である。「まっすぐ立てる」というイメージを表す記号になりうる(834「粛」を見よ。後に「筆」で詳述)。廴は「(横に)延びる」ことを示す記号であるが、視点を垂直軸に変えると、「縦に伸びる」ことにもなる。これは「縦にまっすぐ」のイメージと関係がある。したがって建はたるまないようにぴんと伸ばして、縦にまっすぐ立てる状況を暗示させる。この図形的意匠によって①の意味をもつkiănを表記する。