「研」

白川静「常用字解」
「形声。音符は幵ケン。幵は笄のもとの字で、こうがいは箸に似た細長い形をしていて、髪をかきあげるのに用いる。ふつう象牙や銀でみがきあげて作られた。みがくには質の堅い石を使うので、“みがく、とぐ”ことを研という。みがくことから、すべて精密に仕上げる、“きわめる”の意味となる」

[考察]
疑問点が二つある。幵は干(棒状のもの)を二つ並べた形で、「こうがい」には見えない。また「こうがい」は象牙や銀でみがいたから「みがく」の意味になるというが、言語外から意味を引き出しており、必然性がない。
字形から意味を引き出すのが白川漢字学説の方法であるが、意味の導き方に合理性を欠くことがある。この方法は難点が多い(注)。意味とは言葉に属する概念であって、字形に属する概念ではないから、白川学説の根幹である「字形学」は誤りというほかはない。
(注)次の難点がある。
(1)恣意的な解釈に陥りやすい。
(2) 図形的解釈と意味を混同する。
(3)言葉という視座がないから、意味の展開を合理的に説明する方法を欠く。

言葉という視座から文字を見るという逆転の発想が必要である。研の用例を先に調べてみよう。
①原文:用刀十九年、刃若新磨研。
 訓読:刀を用ゐること十九年、刃は新たに磨研するが若(ごと)し。
 翻訳:十九年間刀を使ったが、刃は研いだばかりのようだった――『呂氏春秋』精通
②原文:夫易聖人之所以極深而研幾也。
 訓読:夫れ易は聖人の深きを極めて幾を研(あきら)かにする所以なり。
 翻訳:易とは聖人が深いところを究め、微かなものを明らかにするものである――『易経』繫辞伝上

①はどこぼこな所を磨いて平らにする(といで刃物などを鋭くする)という意味、②はくもった所(不明な所)を磨いて明らかにすように、分からないことを見極めて明らかにするという意味で使われている。②は比喩的な用法である。①の意味をもつ言葉を古典漢語ではngen(呉音・漢音ではゲン)という。これを代替する視覚記号として研が考案された。
研は「幵ケン(音・イメージ記号)+石(限定符号)」 と解析する。幵は干(棒状のもの)を二つ並べた図形である(『説文解字』に「二干対構、上平に象る」とある)。これによって「左右に並べて(高さを)そろえる」というイメージを表すことができる。このイメージは「(でこぼこがなく)平らにそろう」というイメージにも展開する。したがって研は刃物などを砥石で磨いてでこぼこな所を平らにそろえる状況を暗示させる。この図形的意匠によって①の意味をもつngenを表記する。