「倹」
正字(旧字体)は「儉」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は僉セン。僉は二人の者が並んで、祝詞を入れる器のᆸを捧げてお祈りしている形で、みな、ともにの意味があり、また恭倹(つつしみ深いこと)の意味がある。倹は四つのᆸを並べて祈る嚚ギン・囂ゴウ(やかましい)に比べると、お祈りの仕方が“つづまやか(質素、ひかえめ)”であった」

[考察]
疑問点が三つある。(1)僉を口二つ、人二つに分析し、二人が祝詞を入れる器を捧げて祈る形とするが、亼の説明がない。(2)僉に「みな」の意味はあるが恭倹の意味はない。(3)二つの器を並べて祈る僉は四つの器を並べて祈る嚚ギンや囂ゴウよりも質素だから、「つづまやか」の意味になったという説明は、必然性・合理性が乏しい。
字形から意味を引き出そうとする方法は無理がある。というよりも誤りである。倹はお祈りの仕方がつづまやかという意味だろうか。意味とは具体的文脈で使われる意味である。意味を求めるには古典の文脈を調べる必要がある。倹は次の用例がある。
 原文:禮與其奢也寧儉。
 訓読:礼は其の奢らんよりは寧ろ倹なれ。
 翻訳:儀礼は贅沢にするよりは質素にするのがよい――『論語』八佾

倹は金銭や生活を引き締める(無駄を省く)という意味で使われている。この意味の古典漢語がgiam(giɛm、呉音ではゲム、漢音ではケム)である。これを代替する視覚記号が儉である。これは「僉(音・イメージ記号)+人(限定符号)」と解析する。僉は「亼+吅(二つの者)+从(二人の人)」と分析できる。亼は三方から中心に向けて引き寄せて集めることを示す象徴的符号である(『説文解字』に「亼は三合なり。読んで集のごとし」とある)。僉は多くの物や人を一か所に寄せ集める情景を設定した図形。僉は「多くのものを集めてそろえる」「一か所に引き締める」というイメージを示す記号となりうる。したがって儉は人の生活において、いろいろなもの(不用なもの)を一か所に引き締めて、余分なものを出さない状況を暗示させる。この図形的意匠によって①の意味をもつgiamを表記する。