「剣」
正字(旧字体)は「劍」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は僉。説文に“人の帯ぶる所の兵なり” とあって、剣は腰に着けるものであり、帯剣という。“つるぎ、両刃のあるかたな”をいう」

[考察]
白川漢字学説では形声の説明原理がなくすべて会意的に説く特徴がある。「倹」の項では会意的に「祈り」から倹の意味を導いたが、剣ではそれが不可能である。だから字源を放棄せざるを得ない。
言葉という視点に立ち、言葉の深層におけるコアイメージを捉えて意味の構造をはっきりさせる方法が形声の説明原理である。それにはまず意味を調べる必要がある。意味は字形にあるのではなく言葉にある。言葉が使われる文脈にある。剣は次の用例がある。
 原文:桃氏爲劍、臘廣二寸有半寸。
 訓読:桃氏剣を為(つく)る。臘の広さは二寸有半寸。
 翻訳:桃氏[職工の一つ]は剣を製作する。両刃の広さは二寸半である――『周礼』考工記・桃氏

注釈では「臘は両刃を謂ふ」とある。両面に刃があり、中央に脊(みね)のある「つるぎ」を古典漢語ではkiăm(呉音ではコム、漢音ではケム)という。これを代替する視覚記号が劍である。
劍は「僉(音・イメージ記号)+刀(限定符号)」と解析する。僉は「一か所に引き締める」というイメージがある(465「倹」を見よ)。このイメージは「三方から△の形に中心に寄せ集める」というイメージから出てきたもので、「↗↖の形に引き締まる」「(段々と締まって)↗↖の形に頂点で会う」「先端が∧の形をなす」などのイメージに展開する。したがって劍は刃を鍛えて↗↖の形に引き締めて、先端を尖らせた刀、あるいは中央に∧の形に脊(みね)をなす刀を暗示させる。この図形的意匠によって「つるぎ」の意味をもつkiămを表記する。