「健」

白川静『常用字解』
「形声。音符は建。建は壁に囲まれた儀礼の場所で方位や地相を占い、測量をして建築の基準をつくることをいう。外から乱されることがなく、拠点が守られている状態を、人体の上に及ぼして健という。それで健は“すこやか、たけし、つよい” の意味となる」

[考察]
建の解釈については462「建」で疑問を述べた。健の意味の解釈にも疑問がある。建築の基準をつくることから、なぜ「外から乱されることがなく、拠点が守られている状態」という意味に展開するのか。また、なぜその状態を人体に及ぼすと「すこやか」の意味になるのか。意味の展開に必然性があるとは言えない。
字形から意味を導くのは無理がある。むしろその方法は誤りと言ってよい。意味は字形に属する観念ではなく言葉に内在する観念である。健はどんな言葉で、どんな意味に使われているかを知るには、古典の文脈を調べる必要がある。古典に次の用例がある。
 原文:楚客來使者多健。
 訓読:楚客の来りて使ひする者健多し。
 翻訳:楚から使いに来た者には体の丈夫なものが多い――『戦国策』秦策

健は体が丈夫で強い(元気がよい、心身がすこやか)という意味で使われている。この意味の言葉を古典漢語ではgiăn(呉音ではゴン、漢音ではケン)という。これを代替する視覚記号が健である。
健は「建(音・イメージ記号)+人(限定符号)」と解析する。建は「まっすぐ立つ」というイメージがある(462「建」を見よ)。このイメージは「崩れない(倒れない)ように丈夫でしっかりしている」というイメージに展開する。したがって健は人の体がしっかりと丈夫で強い状況を暗示させる。この図形的意匠によって上記の意味をもつgiănを表記する。