「顕」
正字(旧字体)は「顯」である。

白川静『常用字解』
「会意。頁は頭に儀礼用の帽子をつけて拝んでいる人の形。㬎ケンは日(霊の力を持つ玉の形)の下に糸飾りを白香のようにつけて神霊の憑(よ)りどころとして用いるものである。顯は玉を拝んで神降ろしをしている人の姿で、それの対して神が玉に乗り移り、幽の世界(霊界)から現世に顕(た)ち顕れるのである。神霊の現れることを顕とい」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなくすべて会意的に説く特徴がある。本項は㬎ケンを音符とする形声のはずだが、あえて会意としている。会意とはAの意味とBの意味を合わせたA+BをCの意味とするもの。㬎(玉の下に糸飾りをつけたもの)+頁(拝む人)→玉を拝んで神降ろしをして、神が霊界から現世にたち現れる、と意味を導く。
顕に「神霊が現れる」という意味があるだろうか。そんな意味はなさそうである(『漢語大字典』『漢語大詞典』)。
意味は字形からではなく、言葉から知るものである。古典に使われる文脈から判断して意味を理解する。顯はどんな文脈で使われているかを調べてみよう。
①原文:敬之敬之 天維顯思
 訓読:之を敬せよ之を敬せよ 天維れ顕(あらわ)れたり
 翻訳:慎めよ慎めよ 天命がはっきりと現れた――『詩経』周頌・敬之
②原文:無曰不顯 莫予云覯
 訓読:曰ふ無かれ顕(あきら)かならず 予を云(ここ)に覯(み)るもの莫しと
 翻訳:言っちゃいけない 「隅は暗くて 私を見るものは誰もいない」と――『詩経』大雅・抑
③原文:晏子以其君顯。
 訓読:晏子は其の君を以て顕(あらわ)す。
 翻訳:晏嬰は自分の君主を世の中に知らしめた――『孟子』公孫丑上

①は隠れていた物事がはっきり現れる意味、②ははっきり見えて目立つ(あきらか)の意味、③はまだ知られていない名前や名声を世間に現す意味で使われている。この古典漢語をhen(呉音・漢音でケン)といい、顯という図形で代替される。古人が「顯は見なり」と語源を捉えた通り、henには「はっきりと現れる」というコアイメージがある。顯は「㬎ケン(音・イメージ記号)+頁(限定符号)」と解析する。㬎は「日+絲」を合わせて、明るい太陽の下で染め糸をさらす情景を設定した図形である(後に「湿」でも述べる)。この意匠によって「はっきりと姿を現す」というイメージを表すことができる。頁は頭や人体に関わる限定符号である。したがって顯は隠れていた頭(あるいは体)がはっきりと姿を現す情景である。この意匠によって①②の意味をもつhenを表記する視覚記号となった。
③は「はっきり現れる」というコアイメージから展開する。顕章・顕揚の顕はこれである。