「戸」

白川静『常用字解』
「象形。神を祭る神棚の片開きの扉の形である。一家にはそれぞれ聖所があり、一戸といい、一家の意味に用いる」 

[考察]
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。戸を片開きの扉の意味とするのは戸が門の半分の形だからであろう。しかも神棚の扉に限定するのは何の根拠もないことである。
古典漢語では家の出入り口を意味する言葉をɦag(ɦo、呉音ではゴ、漢音ではコ)といい、戸と表記した。戸は古典に次の用例がある。
 原文:三星在戸
 訓読:三星は戸に在り
 翻訳:三つ星は戸の間に見える位置にある――『詩経』唐風・綢繆

三つ星が時間とともに見える位置が違ってくることを表現した詩句であるが、最初の位置は天(中天)、次は隅(家の隅・角、軒端の付近)、最後に戸(家の出入り口)と変わる。段々と低い位置になっていくことが分かる。もし神棚の扉なら室内になってしまい、星は見えない。
戸は一枚扉を描いた図形である。二枚扉の形が門である。戸と門はともに出入り口であるが、形態や機能が違う。戸については古人は「戸は護なり」という語源意識をもっていた。ɦagという語は護(周囲を囲って守る)や穫(枠の中に入れる)などと同源で、「囲い込む」というイメージがある。このイメージから展開したのが、出入りを止めて(内部を閉じて)囲い込む形態のもの、すなわち出入り口(と、とびら)の意味のɦag(戸)である。