「孤」

白川静『常用字解』
「形声。音符は瓜。幼くして父の無い“みなしご” を孤という」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく、会意的に説くという特徴がある。しかし本項では会意的にも説明できないので字源を放棄している。
形声的に説くとどうなるか。形声の説明原理はまず言葉という視点に立脚すること。次に語源的に究明すること。また最も大切なことは言葉の深層構造に掘り下げ、コアイメージを捉えることである。
孤は次の用例がある。
①原文:可以託六尺之孤。
 訓読:以て六尺のを託すべし。
 翻訳:[その人になら]六尺の孤児をあずけられる――『論語』泰伯
②原文:德不孤、必有鄰。
 訓読:徳は孤ならず、必ず隣有り。
 翻訳:徳のある人はひとりぼっちではなく、必ず仲間ができる――『論語』里仁

①はみなしごの意味、②はひとりの意味であるが、基本は数が一つということである。その意味をもつ古典漢語がkuag(ko、呉音ではク、漢音ではコ)である。これを代替する視覚記号として孤が考案された。
単数を表す古典漢語には孤・寡・隻・単・独があるが、孤と寡は同源の語である。古典漢語では数の一つは未分化のイメージで捉えられる。分化した状態が二である。図形で表すと未分化の統一体は〇、二つの分裂した状態は⏀(半円が二つ並ぶ形)である。〇(未分化の統一体)が「ひとつ」という数の由来である。
孤を解析すると「瓜(音・イメージ記号)+子(限定符号)」となる。瓜は植物のウリであるが、実体に重点があるのではない。形態や機能に重点を置くのが漢字の造形法である。ウリは種類によっていろいろな形態があるが、丸い(丸みを帯びた)形や曲がった形が普通に喚起されるイメージであろう。図示すると「〇」や「⁀」の形である。瓜は「丸い」というイメージを示す記号になりうる。「丸い」のイメージが相手のいない状態、ぽつんと一つだけの状態というイメージにつながる。かくて孤は相手(父母)を失ってひとりぼっちになった子を暗示させる。