「枯」

白川静『常用字解』
「形声。音符は古。古はᆸ(祝詞を入れる器)の上に、聖器としての干(盾)を置いてᆸを守り、祈りの効果を長く保たせることをいう。それで古に“ふるくからのもの、ふるい” の意味があるが、あまり古くて長い時間がたつと木は枯れ、水は涸れるのである。“かれる、かわく”の意味に用いる」

[考察]
古の解釈の疑問については499「古」でも述べた。「祈りの効果を長く保たせる」時間はそんなに長期であるはずはないのに、「むかし、いにしえ」の意味になるのが理屈に合わない。古くて長い時間がたつと木は枯れ、水は涸れるというのは必然性があるだろうか。
古典漢語で植物がかれることをk'ag(呉音ではク、漢音ではコ)といい、この聴覚記号を代替する視覚記号が枯である。次の用例がある。
①原文:枯楊生稊。
 訓読:枯楊稊テイを生ず。
 翻訳:かれたヤナギにひこばえが生える――『易経』大過
②原文:魚枯生蠹。
 訓読:魚枯れて蠹トを生ず。
 翻訳:魚がひからびると体内に虫が発生する――『荀子』勧学

①は植物がかれる意味、②は水気がなくなりひからびる意味に使われている。
枯は「古(音・イメージ記号)+木(限定符号)」と解析する。「古」は「固い」というイメージがあり、これは「ひからびて固くなる」というイメージに展開する(499「古」を見よ)。したがって枯は木(植物)が水気を失って固くなる状況を暗示させる図形。これは図形的意匠であるが、植物などがひからびる状態(①と②)を意味するk'agの代替記号になりうる。
枯は古いから「かれる」の意味になるのではなく、生気を失ってひからびる状態を捉えた言葉である。