「庫」

白川静『常用字解』
「会意。广は崖ふちの家の形。兵車を蔵める建物を庫といい、兵車のくらの意味となる」

[考察]
『説文解字』では「兵車の蔵なり」とあるが、必ずしも戦車をしまう建物に限定されない。普通の車や武器、また物品などをしまっておく建物を古典漢語ではk'ag(呉音でク、漢音でコ)という。これを代替する視覚記号が庫である。
白川は广を崖ふちの家だというが、「座」の項では廟の屋根の形、「庶」の項では厨房の屋根の形などとしており、まちまちである。广は屋根や建物と関係する限定符号である。したがって庫は「車(イメージ記号)+广(限定符号)」と解析する。「車」と「屋根」を合わせただけの舌足らずな図形だが、車をしまう建物であろうと想像で補わせる。この意匠によって物をしまう建物を意味する古典漢語k'agを表記する。
なぜ物をしまう建物(くら)をk'agというのかは語源の問題である。これについては藤堂明保が、庫は下・家・仮・夏・胡・湖・賈コなどと同源で、これらはKAGという音形と、「下の物をカバーする」という基本義をもつとし、「(庫は)屋根で物をカバーする意で、家が屋根でカバーする意を示すのと似ている」と述べている(『漢字語源辞典』)。
字源だけでは「車+广」で車をしまうくらの意味になってしまうが、語源的に究明すると、大事なものが雨露にさらされないように屋根や覆いでカバーして保護するという事態まで想像できる。