「雇」

白川静『常用字解』
「会意。戸は神を祭る神棚の片開きの扉の形。神棚の扉の前に隹を置いて鳥占いをし、神意をたずねること、隹の力を借りて神意を問うことを雇という。それで雇は“やとう(借りて使う。利用する)” の意味となる」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなくたいてい会意的に解釈される。だから戸は明らかに音符なのに白川はあえて会意とする。戸(神棚の戸棚)+隹(とり)→鳥占いをして神意をたたずねるという意味を導く。
会意的方法は図形的解釈と意味を混同するという欠点がある。隹(鳥)の力を借りて神意を問うというのは図形的解釈なのか意味なのか曖昧である。
「神棚の扉+隹(とり)」の図形からなぜ鳥占いが出てくるのかも疑問。また「鳥の力を借りて神意を問う」というのはどういうことか。それからなぜ「やとう」の意味が生まれるのか。神意を問う行為は言ってみれば「聖」に属するものであろう。「やとう」は賃金を払って人をやとう行為で、きわめて世俗の出来事だ。この落差が意味上つながるだろうか。
雇は鳥の名イカル(アトリ科の鳥)の意味で使われていたが、漢代以後に「やとう」の意味に使われるようになった(雇に新しい意味付けをした)。「やとう」は比較的新しい用法である。白川は宗教儀礼(?)で解釈したが時代錯誤というほかはない。
雇は「戸コ(音・イメージ記号)+隹(限定符号)」と解析する。戸は「出入りを止めて囲い込む」というイメージがある(498「戸」を見よ)。隹は比喩的限定符号である。雇は鳥を囲い込んで飼うように、人を囲い込む状況を暗示させる。この図形的意匠によって「賃金を払って人をやとい入れる」を意味するko(呉音ではク、漢音ではコ)という言葉を表記する。