「誇」

白川静『常用字解』
「形声。音符は夸コ。夸は大きなナイフの形。そのナイフで肉を切り取ることを刳(えぐ)るといい、またぐことを跨という。夸にはすべて大きい、大きく開く形のものの意味がある。それで誇とは、ことをおおげさに言いたてて人に“ほこる” の意味となる」

[考察]
夸の字形の解釈が疑問。大きなナイフの形に見えるか疑わしい。『説文解字』に「大に従ひ于の声」とあるように形声文字であろう。「大きなナイフ」から「大きく開く形のものの意味がある」というが、これも疑問。こんな意味は夸にない。
形声の説明原理のように見えるが、やはり会意的に説いている。形声をも会意的に説くのが白川漢字学説の特徴である。ここには言葉という視点がない。これでは意味が「言葉の意味」ではなく「字形の意味」になってしまう。字形の解釈がそのまま意味になってしまう。
意味とは「言葉の意味」であり、言葉が文脈に使われる際の、その使い方である。誇は次のような文脈で使われている。
 原文:戲而相誇。
 訓読:戯れて相誇る。
 翻訳:[二人の子供が]ふざけ合って自慢話をした――『韓非子』外儲説左下
誇は大げさに言って自慢するという意味で使われている。これを古典漢語ではk'uăg(呉音ではクヱ、漢音ではクワ)という。これを代替する視覚記号として誇が考案された。
誇は「夸カ(音・イメージ記号)+言(限定符号)」と解析する。夸は「于ウ(音・イメージ記号)+大(イメージ補助記号、また限定符号)」と解析する。于は「⁀形に曲がる」というイメージがある(46「宇」を見よ)。このイメージは「∧形を呈する」というイメージに展開する。大は両足を広げて立つ人の形である。イメージとしては大きく広げるイメージ、限定符号としてはそのような姿勢を取る人に関わる場面・情景を設定する働きがある。夸は両足を∧の形に大きく広げる情景を暗示させる図形。人や両足という具体を捨象してただ「大きく∧形に広げる」というイメージを表すことができる。かくて誇は言葉の内容が大きく広がる状況を暗示させる。この意匠によって上記の意味をもつk'uăgを表記する。
誇張の誇は大げさに言う意味、誇示の誇は自分をほめる(自負する)の意味で、前者からの転義である。