「五」

白川静『常用字解』
「仮借。木を斜めに交叉させて作った器物の二重の蓋の形。これを数字の五に用いるのは、その音だけを借りる仮借の用法である」

[考察]
仮借は漢字の成り立ちを説明する六書(象形・指事・会意・形声・仮借・転注)の一つだが、漢字の構成を規定するのは前の四つ(象形~形声)で、後の二つ(仮借・転注)は応用の規定であって、字形の説明にはなじまない。器物の二重の蓋の形とあるから象形と規定すべきである。
仮借とはaという意味に対する文字(Aを想定)がない場合、bという意味の文字Bを借りてAとするというもの。Aは音だけがあって形がないので同音のBをAに移行させる。本項の場合「いつつ」という意味に対する文字(A)がないので、「器物の二重の蓋」の形の五(B)をAとする。ここで疑問が起こる。「器物の二重の蓋」は意味なのか何なのか。AとBは同音だという。音がある限り言葉があり、言葉がある限り意味があるはずである。そうするとBは「器物の二重の蓋」という意味のはず。しかし五は殷代の甲骨文字でも「いつつ」の意味であって、「器物の二重の蓋」の意味ではない。最初からAは五であり、「いつつ」の意味である。仮借という考えは成り立たない。Aとaが結びつかず説明ができないので仮借として逃げているだけである。
字源はただ字形を解釈して終わるものではない。文字と意味の関係、言葉と文字の関係を正しくつかむ必要がある。意味は文字(形)に属する概念ではなく、言葉(音)に属する概念である。まず言葉があり、次にそれを視覚化した文字が発生した。言葉は聴覚記号であり、文字は視覚記号である。以上の事実をしっかり押さえておく必要がある。
歴史的、論理的に五の起源を述べてみよう。
古典漢語では数の「いつつ」、また5番目の意味をもつ言葉がngag(殷代にも遡ってngagまたはそれに似た音形を想定する)である。これは聴覚記号である。それを視覚記号に変換する際に五が考案された。五はᆖ(上下の二線)の中間にхの符号を入れた形である。二つの間で交差する状況を暗示させている。図示すると|⇆|の形でも表せる。←の方向へ進むものが次に→の方向へ進む。これも交差のイメージである。
数の命名の方法は一・二・三がまず数の性質に着目されて成立する。これは一つのまとりである。ついで四が数の性質、五・六が数え方の特徴、次に七・八・九が数の性質、といったぐあいに成立する。最後に単位名である十・百・千・万などが成立する。
数の「いつつ」はngagと命名された。この言葉は牙・午・互・呉・逆などと同源で「(х形や⇆形に)交差する」というイメージがある。十進法において5は10の中間に当たる数である。片手の指を使って数を数える場合、←の方向に数えていき、次に折り返して→の方向に進んで10まで数えるが、交差する所が5である。指が5本あるという事実がngagという言葉の起源と言えよう。