「午」

白川静『常用字解』
「象形。杵の形。これを呪器として、邪悪を御(ふせ)ぐのに用いた。十二支の一の午に用い、のち十二支獣の名にあてて“うま” と読む」

[考察]
邪悪を防ぐことと十二支との間に何の関係があるのか分からない。おそらく仮借とするのであろう。
午は序数詞のための専用字である。序数詞とはfirst、second、thirdのように順序を表す数詞である。漢語の数観念では序数詞は基数でもって表される。つまり基数が序数詞を兼ねる。例えば一は基数(ひとつ)と序数詞(1番目)を区別しない。一月はひとつの月(一か月)でもあり1番目の月(正月)でもある。
ところが特別の序数詞がある。これが十干と十二支である。十進法と十二進法による序数詞で、第十位と第十二位まで数えられる。それ以後は同じ記号の繰り返しである。だから純粋の序数詞ではないから、「循環的序数詞」と呼ぶべきものである。十干と十二支を組み合わせて干支カンシ(えと)を作り、六十進法で日にちを数えた。特別の序数詞といったのは時間(年月日)を数えることに限定されるからである。
午は十二支の第七位、ngagという序数詞を表記するために考案された。この言葉は五と同源で、「⇆形に交差する」というコアイメージをもつ(343「許」、346「御」を見よ)。十進法の基数の場合、五は十の中間である。ただし基数は1から9までである。これの折り返し点(交差点)が5に当たるので、漢語ではこれを五とする。一方、十二進法の序数詞では7番目を折り返し点(交差点)とした。これを午とした。午は白川の指摘する通り、杵の図形である。白川は呪器とするため意味の導出ができないが、杵という実体ではなく機能に重点を置くと見るべきである。杵は餅などを搗く道具で、↓の形に突くと、次に↑の形に持ち上げる。この動作を繰り返して搗くことが杵の用途である。だから午は「⇆の形に交差する」というイメージを表す記号になりうる。かくて十二進法の交差点に当たる第七位を意味するngagの表記となるのである。
循環的序数詞は殷代で発生したが、はるか後世(後漢の頃)になって、十二支に動物を当てはめる習慣が起こった。子に鼠、丑に牛、寅に虎といったぐあい。午には馬が配当された。午に「うま」の訓がついたのはこれによる。十二支とそれを表象する動物には必然的な関係はないが、迷信のような色彩をつけて面白がって解釈する向きがある。