「交」

白川静『常用字解』
「象形。足を組んで立っている人を正面から見た形。足を組むことから、交錯(ものが入りまじる)の意味となり、交際・交友のように人間同士のまじわりをいう」

[考察]
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。足を組むことから、交錯・交際の意味が生まれたという。
これは逆立ちした文字学である。この文字学は言葉という視点がないから、意味は字形から生まれるという考え方である。
意味とは何か。言語学の定義では言葉(記号素)は音と意味の二要素の結合したもので、意味は言葉に内在する概念である。だから意味とは「言葉の意味」であって「字形の意味」ではない。
交は古典でどのように使われているかを尋ねてみよう。次の用例がある。
①原文:爲賓爲客 獻醻交錯
 訓読:賓と為り客と為り 献醻ケンシュウ交錯す
 翻訳:あっちこっちで賓客が 入り交じって杯のやりとり――『詩経』小雅・楚茨
②原文:與朋友交而不信乎。
 訓読:朋友と交はりて信ならざるか。
 翻訳:友人と付き合う際、噓を言っていないか――『論語』学而

①は×形に交わる、⇆形に行き交うという意味、②は人が⇆形に行き交う、つまり付き合うという意味で使われている。これらの根底にあるイメージが「×形に交差する」というイメージである。これを表す語を古典漢語でkɔg(呉音ではケウ、漢音ではカウ)という。これを代替する視覚記号が交である。
交は白川の言う通り人が足を組んでいる形である。しかし足を組むという意味を表すのではなく、「×の形に交差する」というイメージを表すのである。×は方向が逆の二線が交わる形で、これは⇆の形でも表せる。「逆の方向に行き交う」というイメージになる。①と②の意味はこのイメージから実現される意味である。