「好」

白川静『常用字解』
「会意。女と子とを組み合わせた形。もと母親が幼児をかわいがることをいう字であろう。母親の子どもに対する愛情の意味から、姿が“うつくしい” という意味、“したしい”という意味となり、すべて状態が良好である(よい)ことをいう」

[考察]
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。女+子→母親の子どもに対する愛情という意味を導く。これから「うつくしい」「したしい」「よい」の意味に転じたという。
図形の解釈をストレートに意味とするから、意味に余計な意味素(母親、子ども)を混入させる。意味はただ愛情(愛すること)であろう。図形的解釈と意味の混同は白川漢字学説の特徴の一つである。
字源の前に語源の検討が必要である。語源が字源を制約する。古人は好・孝・畜の同源意識を持っていた。これを学問的に究明したのが藤堂明保である。藤堂は好・孝・休・畜の四語がHOG・HOKという語形と「大切にかばう」という基本義をもつ単語家族をなすとしている(『漢字語源辞典』)。
改めて字源を見る。「女+子」という極めて舌足らず(情報不足)な図形である。何とでも解釈できるが、語源を考慮すると絞られてくる。女が子を大切にかばう(大事に庇護する)情景という意匠が読み取れる。この図形的意匠によって、相手をこのましく思って大切にすることを暗示させる。
好の用例を古典に尋ねてみよう。
①原文:中心好之 曷飲食之
 訓読:中心之を好む 曷(なに)もて之に飲食せしめん
 翻訳:心の底から愛してる どんなごちそうあげましょう――『詩経』唐風・有杕之杜
②原文:窈窕淑女 君子好逑
 訓読:窈窕たる淑女は 君子の好逑
 翻訳:奥ゆかしいおとめ御は 殿方のよきカップル――『詩経』周南・関雎

①は大切にかわいがる(愛する、すきである)の意味、②は愛らしい(美しい)の意味である。ここから、③好ましい(立派である、よい)の意味、④好ましいと思う(気に入る、このむ)の意味に展開する。