「江」

白川静『常用字解』
「形声。音符は工。工は虹の字が示すように、虹の形のようにゆるやかで反りのある半円形のものをいう。江は“かわ”、長江の意味に用いる」

[考察]
工の解釈については403「空」でも疑問を呈している。工に「反りのある半円形のもの」という意味はない。そんな意味からなぜ「かわ」や長江の意味になるのかも理解できない。
白川漢字学説では形声の説明原理がない。言葉という視点を欠いているから言葉の深層構造を捉えることは念頭にない。江は言葉の深層構造、つまり言葉の根底にあるコアイメージを捉えないと説明できない。これこそ形声の説明原理である。
江は「工(音・イメージ記号)+水(限定符号)」と解析する。工がコアイメージの源泉である。工は上下の二線の中間を縦に一線で貫くことを示す象徴的符号で、「(縦に)突き通す」というイメージをもつ(525「工」を見よ)。江は中国大陸を西の高原から東の平野へ直通する川を暗示させる。この意匠によって、川の名(長江、揚子江)を意味する古典漢語kŭng(呉音ではコウ、漢音ではカウ)を表記する。
この意味の江はすでに『詩経』などの古典に用例がある。
①原文:江之永矣 不可方思
 訓読:江の永き 方(いかだ)すべからず
 翻訳:江は長いよ いかだで渡れぬ――『詩経』周南・漢広
②原文:三江既入。
 訓読:三江既に入る。
 翻訳:三本のかわがやがて[沢に]流入する――『書経』禹貢

①は長江の意味、②は大きな川の意味、また川の通称である。