「考」

白川静『常用字解』
「形声。音符は丂コウ。耂は老の上部の形と同じで、長髪の老人を横から見た形。これに音符の丂を加えた字が考である。亡父が考のもとの意味である。“かんがえる、くらべる、しらべる”という意味は校と音が同じで、通用の意味である」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく、すべて会意的に説くのが特徴である。しかし本項では丂の説明ができないため、耂(老)から意味を求め、亡父の意味とした。しかしなぜ亡父の意味になるかの説明もない。 字源の体をなしていない。
また白川漢字学説は言葉という視点がないので意味展開を説明する方法もない。「考える」の意味の由来を仮借説に逃げた。意味展開を合理的に説明するにはコアイメージという概念が必要である。
意味とは「言葉の意味」であって、言葉の使われる文脈によって判断し理解するものである。考を使った古典の文脈を尋ねると、次の用例がある。
①原文:壽考萬年
 訓読:寿考万年
 翻訳:いついつまでも長生きを――『詩経』小雅・信南山
②原文:於乎皇考
 訓読:於乎(ああ)皇考よ
 翻訳:ああ亡き父よ――『詩経』周頌・閔予小子
③原文:考愼其相
 訓読:其の相を考慎す
 翻訳:輔佐の臣をよく調べ考える――『詩経』大雅・桑柔

①は長生きの老人の意味、②は死亡した父の意味、③は物事を突き詰めて調べ考える意味である。これらの意味をもつ古典漢語がk'og(呉音・漢音でカウ)である。これを代替する視覚記号として考が考案された。
考は「丂コウ(音・イメージ記号)+耂(=老。限定符号)」と解析する。丂が基幹記号(言葉の深層構造に関わる部分)であり、コアイメージの源泉である。どんなイメージか。丂は「つかえて曲がる」というイメージを示す記号である。↑の形に進んでいくものが「一」の所でつかえると曲がってしまい、これ以上進めなくなる。これが「つかえて曲がる」のイメージであり、このイメージは「とことんまで(最後のつかえた所まで、究極まで)突き詰める」というイメージに展開する(529「巧」を見よ)。したがって、考は寿命をとことんまで突き詰めた老人を暗示させる。この意匠によって、長生きの老人の意味(①)をもつk'ogを表記する。死んだ父を「寿命を極めた人」と讃えて言うのが②の意味である。また「究極まで突き詰める」というコアイメージから、物事を突き詰めていく(考えたり調べたりして追及する)という意味を派生する。これが③の意味である。