「抗」

白川静『常用字解』
「形声。音符は亢。亢は動脈部分を含む咽喉の形。興奮したときに動脈があらわれるので、憤り、嘆くことを忼慨 という。そのような気持で強く反対することを抗という」

[考察]
亢には咽喉の動脈という意味はない(540「坑」を見よ)。興奮すると動脈があらわれるから、忼慨 (憤慨)のような気持で強く反対することが抗の意味だという。
形声の説明原理がなく会意的に説くのが白川漢字学説の特徴である。本項も会意的な意味の取り方である。動脈という実体をもろに使って解釈している。動脈→興奮(憤慨)→抵抗という具合に意味を展開させる。
形声の説明原理とは言葉の視点に立ち、言葉の深層構造に掘り下げるものである。語源的に捉えることが大切である。
抗が古典でどのように使われているかを尋ねてみよう。次の用例がある。
①原文:大侯既抗 弓矢斯張
 訓読:大侯既に抗(あ)げ 弓矢斯れ張る
 翻訳:大きな的を高々と挙げ 弓に矢をぴんと張る――『詩経』小雅・賓之初筵
②原文:貪利則抗之以高志。
 訓読:利を貪れば則ち之に抗するに高志を以てす。
 翻訳:利益を貪れば高い志でもって抵抗する――『荀子』修身

①は高く挙げる意味、②は相手の前に立ちふさがって防ぐ意味で使われている。この意味をもつ古典漢語がk'ang(呉音・漢音でカウ)であり、抗と表記する。
抗は「亢(音・イメージ記号)+手(限定符号)」と解析する。亢はのどくびを描いた図形である。実体に重点があるのではなく形態に重点がある。のどくびはまっすぐな首筋であるから、「↑の形に高く立つ」というイメージがある。したがって抗は手で物を高く立ち上げる状況を暗示させる。この意匠によって①の意味をもつk'angを表記する。一方、↑の形(上方にまっすぐ)は←の形(横にまっすぐ)、↓の形(下方にまっすぐ)というイメージにも転化する(540「坑」を見よ)。また→|の形(まっすぐに当たる)のイメージや→←の形(双方からまっすぐに向き合う)のイメージにも転化する。かくて抗は向こうから来るものにまっすぐ立ちはだかるという意味を派生する。これが②の用法である。