「更」

白川静『常用字解』
「会意。もとの字は㪅に作り、丙と攴とを組み合わせた形。丙は武器などの器物を置く台座の形。更の金文の字形は、二つ重ねた丙を下から殴つ形で、これによってその器物の機能が更改され、継続されることを意味するのであろう」

[考察]
台座の機能とは器物を上に載せることであろうが、台座を下から打つことがなぜ機能を更改し継続することになるのか。理解しがたい。図形的解釈と意味が混沌としている。
字形から意味を引き出そうとするのは無理である。更がどんな言葉を代替するのか、その言葉が文脈でどのように使われているかを調べることから出発すべきである。更は次の用例がある。
①原文:更也、人皆仰之。
 訓読:更(あらた)むるや、、人皆之を仰ぐ。
 翻訳:[君子が]間違いを改めると、人はみな彼を仰ぎ見る――『論語』子張
②原文:景公欲更晏子之宅。
 訓読:景公、晏子の宅を更(か)へんと欲す。
 翻訳:景公は晏嬰の屋敷を替えたいと思った――『春秋左氏伝』昭公三年

①は新しくする意味、②は別のものにかえる意味で使われている。この言葉を古典漢語ではkăng(呉音ではキヤウ、漢音ではカウ)という。これを代替する視覚記号として更が考案された。
古人は「更は改なり」「更は革なり」と言っている。王力(現代中国の言語学者)は更・改・革を同源としている(『同源字典』)。藤堂明保は更・魚・庚を同源とし、「固い芯が張っている」という基本義があるという(『漢字語源辞典』)。いずれにしても「たるみをぴんと張る」「たるんだ状態を硬くする」というのがkăngのコアイメージである。物が古くなるとたるみが生じる。たるみをぴんと張り詰めることによって再び新しくすることができる。したがって、kăngは古いものを新しいものに変えるという意味が実現される。これを表記するのが更である。
以上は語源から見たが、次に字源を検討する。更は㪅(篆文の字体)の変形で、「丙+攴」と分析できる。丙はその項で詳述するが、結論だけを述べると、「↲↳の形や←→の形に(左右に)ぴんと張り出る」というイメージを示す記号である。これは「何(なに)」に重点があるのではなく「如何(いかん、どうのよう)」に重点を置く。←→の形にぴんと張ると緩んだ状態やたるんだ状態が張り詰められて硬い状態になる。病という言葉にはこのイメージがよく現れている。手足がぴんと張って硬直に近い状態になることが病である。普通の病気ではなく「危篤になる」という意味である(論語に「子の疾は病ヘイなり」とある)。
更は「丙(イメージ記号)+攴(動作と関わる限定符号)」と解析する。丙は上に述べたように「↲↳の形や←→の形に(左右に)ぴんと張り出る」というイメージがあり、「(ゆるみ・たるみを)ぴんと張り詰める」というイメージに展開する。したがって更はたるんだ状態をぴんと張ってたるみを無くすることを暗示させる。この図形的意匠によって、上記の①古いものを新しいものに変える意味、②別のものに替える意味をもつkăngを更で表記するのである。