「肯」

白川静『常用字解』
「象形。もとの字は肎に作り、上部は骨、下部は肉(月)で、骨に接続している肉(腱の部分)の形。困難な状況をおしきってすることを肯(あえ)てといい、肯てすることを肯(うべな)うという」

[考察]
「冖(骨)+肉」で、なぜ「困難な状況をおしきってする」という意味になるのか分からない。敢の「あえて」はそのような意味であるが、肯は「あえて」と読むけれどもそんな意味ではない。次の用例がある。
 原文:惠然肯來
 訓読:恵然として肯へて来れ
 翻訳:私の元へ来ると優しく言って!――『詩経』邶風・終風

恵然は愛情深く、優しくの意味。肯は良しと受け入れる(うべなう、うなずく)ということから、「承知して~する」という副詞的用法に転じたもの。肯来は来ることを良しと受け入れる、承知して来てくれるといった意味である。
k'əng(呉音・漢音でコウ)という言葉は「うまく(ぴったり)はまりこむ」というコアイメージがある。これを視覚化したのが肎(肯は変形)であるが、実は骨と同じ発想で作られた記号である。骨は「冎(関節の骨)+肉(限定符号)」を合わせた図形で、関節を表す図形(「骨」を見よ。後述)。関節の穴に骨がはまりこんでいるもの、要するに骨と骨をつなぐ関節である。AにBがはまりこんで動きの機能が生まれる。これがまさに関節の働きである。肎は「冎の略体+肉」で、基本は骨と同じ。ただし「二つがうまくはまりこむ」というイメージだけを用いたのが肎である。かくて、「ある事柄が自分の心にぴったりはまりこんで、それを良しと受け入れる」ことを意味するk'əngの視覚記号となった。