「恒」
旧字体は「恆」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は亘コウ。もとの字は亘に作り、上下の二横線の間に弦月(弓張り月)をかく字形であった。月中の女神を恒娥といい、盈ち欠けをくり返しながらも消滅することがないので、その名を得たのであろう。“つね、ひさしい” の意味に使う」

[考察] 
弓張り月からなぜ「つね、ひさしい」の意味になるのか。白川は「盈ち欠けを繰り返しながらも消滅することがない」からという。しかし月そのものは消滅しないとしても、新月になれば弦は消えて暗くなる。弓張り月の形から「つね」の意味になるというのは変である。
白川漢字学説では形声の説明原理がなく、たいてい会意的に説くが、会意でも解けないことがある。その場合は字源を放棄する。本項では恒娥という神話的な神の名から説明したが、中途半端な字源説である。
字形ではなく言葉という視点から、まず古典の文脈に当たってみよう。
 原文:嗟爾君子 恆無安息
 訓読:嗟(ああ)爾君子よ 恒に安息する無かれ
 翻訳:ああお前たち君子よ いつものうのうと暇をつぶすな――『詩経』小雅・小明

恒はいつも変わらず一定している(いつも、つねに)という意味で使われている。これを古典漢語ではɦəng(呉音ではゴウ、漢音ではコウ)という。これを代替する視覚記号として恆が考案された。
恆は「亙コウ(音・イメージ記号)+心(限定符号)」と解析する。亙が言葉の深層構造に関わる記号である。亙は〓(上下の二線)の間に月を挟んだ形である。これは上端から下端まで張り渡った月の弦を暗示させる。弦の見え方はいろいろであるが、張り方は一方の端から反対側の端まで幅や長さが一定である。だから亙は「たるみなく張り渡る」「いつも一定で変わらない」というイメージを表すことができる。かくて恆は心構え(精神)がいつも変わらずたるまない状況を暗示させる。この図形的意匠によって上記の意味をもつɦəngを表記する。
なお亙と亘が混同されて字体が恒に変化した。亙コウは「わたる」という意味、亘センは「めぐる」という意味で、別字である(75「垣エン」を見よ)。