「皇」

白川静『常用字解』
「象形。王の上部に玉の飾りを加えている形。王は王の象徴として用いる大きな鉞の頭部の形で、柄を装着する部分に玉を飾る。その玉の光が上に放射している形をそえると皇となるから、皇は“かがやく” となる。また輝く鉞の頭部は王位の象徴であるから、皇は“王・君主・天子”の意味に用いる」

[考察]
「かがやく」の意味を表すために王の象徴である鉞の頭部に飾った玉の光が放射する形を作ったとはとうてい信じられない。あまりにも特殊な状況だからである。このような特別な物体(王の象徴)の形は「王・天子」の意味こそふさわしい。上の説明では「かがやく」から「王・天子」に転じたようになっているが、逆ではないか。
皇は王(鉞)の頭部に玉を飾ると言いながら。後では「(鉞の)柄を装着する部分に玉を飾る」と言っている。いったいどういう状況なのか、分かりにくい。だいたい鉞に玉を飾るとはどういうことか、これもよく分からないことである。
古典で皇はどのように使われているかを文脈から尋ねてみよう。
①原文:皇矣上帝 臨下有赫
 訓読:皇(おお)いなる上帝 下に臨みて赫カクたる有り
 翻訳:大いなるかな天の神は 輝かしく下界をみそなわす――『詩経』大雅・皇矣
②原文:皇皇者華 于彼原隰
 訓読:皇皇たる華 彼の原隰の于(お)いてす
 翻訳:今を盛りと輝く花は 野原や沢に咲き乱れ――『詩経』小雅・皇皇者華

①は大きい、偉大であるの意味、②は輝かしいの意味で使われている。これを意味する古典漢語がɦuang(呉音ではワウ、漢音ではクワウ)である。これを代替する視覚記号が皇である。
まず語源について。ɦuang(皇)という語は王・広・黄・光などと同源で、「大きく広がる」というコアイメージがある。図示すると←→の形が左右上下(四方)に延び出る形、「四方に大きく広がる」というイメージである。これは空間的なイメージだが、形状・性情としては「偉大である」という意味、物理的には「(光が)輝く、輝かしい」という意味を実現させる(上記の①②)。①②から美称にも転じ、皇天・皇王・皇祖・皇父・皇考などの語を派生し(すべて『詩経』にある)、皇だけで君主・天子の意味にもなった(三皇の皇)。
次は字源について。篆文は「自+王」になっているが、皇は隷書以後の字体。篆文の字体は「王(音・イメージ記号)+自(イメージ補助記号)」と解析する。王は刃が‿の形に大きく広がった武器(鉞の類)を描いた図形である。「大きく広がる」というイメージから「偉大な人」を表した(87「王」を見よ)。自は鼻の形である。鼻は顔面から突き出たもので、その形態的特徴から、先端や起点(何かの始まり)のイメージを表す記号になる。したがって皇は人類が始まる起点になるもの、つまり偉大な始祖を暗示させる。隷書では「王(音・イメージ記号)+白(イメージ補助記号、また限定符号)」に変わった。王は「大きく広がる」「中心から四方に延び出る」というイメージ。白は白いもの(特に光)を指す。したがって皇は中心から四方に光を放つ情景を暗示させる。ɦuangの二つの(基本の)意味「偉大である」と「輝かしい」の意味に対応して字体が変わったと推測される。最初は「王+自」の一つの字体であるが、後に「白+王」の字体に取って代わった。