「候」

白川静『常用字解』
「形声。音符は矦。𥎦(屋根の下に矢を放って、弓矢で家の周辺の邪気を祓う儀礼)の屋根の上に人を加え、さらに儀礼につき従う人を加えて侯となった。侯は都の周辺にあって、外敵の様子をうかがい、外敵の邪気を祓うことを任務としていた諸侯であった。侯がのちに五等の爵号に用いられるようになって、別に候の字が作られ、“うかがう、うかがいみる、まつ” の意味に用いられる」


[考察]
まず字形の解剖に疑問がある。𥎦に人を加えたのが矦で、矦に人を加えたのが侯、侯に人を加えたのが候という説明である。候は三つの人が含まれていることになる。しかし矦と侯は同字のはずである。侯の人偏は厂が変わったもので、⺈が人である。侯は矦の崩れた字体である。
意味の導出・展開の疑問については550「侯」で述べた。
候の古典における用法を見てみよう。
①原文:相爲耳目、以候王隙。
 訓読:耳目と相為りて、以て王の隙を候(うかが)ふ。
 翻訳:耳となり目となって、王のすきを伺った――『韓非子』備内
②原文:彼候人兮 何戈與祋
 訓読:彼の候人は 戈と祋タイとを何(にな)ふ
 翻訳:あの候人[賓客を接待する役人]は ほこと警棒を担いでいる――『詩経』曹風

①は様子を伺う意味、②は待つ(待ち受ける)の意味で使われている。これを意味する古典漢語がɦug(呉音ではグ、漢音ではコウ)である。これを代替する視覚記号が候である。
候は「侯(音・イメージ記号)+人(限定符号)」と解析する。侯は矢で的を射ることを暗示させる図形で、「狭い穴を通す」というイメージを示す記号になる(550「侯」を見よ)。したがって候は狭い穴を通して様子をうかがい見る情景を設定した図形。図形的意匠は意味と同じではない。暗示させるだけである。意味はɦugの「様子を伺う」である。これが①の意味。これから、周囲の状況を伺いながら待ち受ける意味を派生する。これが②である。
白川説では候を「外敵の様子をうかがう」の意味としたが、図形的解釈と意味を混同している。