「貢」

白川静『常用字解』
「形声。音符は工。説文に“功を献ずるなり” とあり、生産品(功)を貢納するの意味とする。貢は百工が作る生産物を貢納するの意味であろう」

[考察]
説文は貢の説明であって工の説明ではない。貢を「百工が作る生産物を貢納する」の意味とするが、肝心の貢は何かの説明がない。
形声の説明原理がなく、会意的に説くのが白川漢字学説の特徴である。工を工人と見ると、「工+貝」は「百工の作った生産物」の意味になり、貢納の意味にはならない。
言葉の深層構造に掘り下げて、コアイメージを捉えるのが形声の説明原理である。言葉の視点に立つのが基本である。白川漢字学説には言葉という視点が欠けている。
貢は古典に次の用例がある。
 原文:厥貢漆絲。
 訓読:厥(そ)の貢は漆・糸。
 翻訳:その土地のみつぎ物はうるしと糸である――『書経』禹貢

貢は日本語の「みつぎ」に当たる。下から上に物を献上すること、あるいは地方の産物を朝廷(政府)に差し上げることを古典漢語ではkung(呉音ではク、漢音ではコウ)といい、これを貢の視覚記号によって代替させる。
貢は「工(音・イメージ記号)+貝(限定符号)」と解析する。工は上下の二線の間を縦の一線が↓の形に通ることを示す象徴的符号で、「突き通す」というイメージがある(525「工」を見よ)。↓(縦にまっすぐ通る)と→(横にまっすぐ通る)」は視点の違いである。「上下の間を↓の形に突き通る」のイメージは「AからBへ(中間を抜いて)→の形に直通する」というイメージに展開する。貝は財貨や物産と関係する限定符号。したがって貢は産物をAからBへまっすぐに届ける状況を暗示させる。この図形的意匠によって、地方から中央の政府へ物をたてまつることを意味するkungを表記する。