「黄」
正字(旧字体)は「黃」である。

白川静『常用字解』
「象形。甲骨文字の字形は火矢の形で、その火の光から“き、きいろ” の意味となるのであろう。金文の字形は佩玉の形とみられ、その薄い飴色が黄色とされた」

[考察]
字形から意味を引き出すのが白川漢字学説の方法である。火矢の光→黄色、また、佩玉→飴色(黄色)というぐあいに意味を導く。
白川漢字学説には言葉という視点がない。まず言葉があり、目に見えない聴覚記号を可視化するために発明されたのが文字である。意味は言葉にあり、字形にはない。ただし意味のイメージを図形に表現するという方法を採用したのが漢字である。漢字の造形法は言葉の意味のイメージを何らかの工夫により図案化する。だからと言って漢字はストレートに意味を表していない。漢字が意味を表すから表意文字だというのは正しくない。記号素の音のレベルで視覚記号に変換するのが表音文字であり、それに対して意味のレベルで視覚記号に変換するのを表意文字と称している。漢字は言葉の意味をそっくり表すのではなく、意味のイメージを暗示させるだけである。だから漢字の字形の解釈と意味はおおむね一致しない。意味はあくまで言葉に内在するものであり、言葉を使用する文脈からしか出てこない。
黄の使用される文脈を見てみよう。
 原文:裳裳者華 或黃或白
 訓読:裳裳たる華 或いは黄或いは白
 翻訳:美しく咲く大輪の花 黄色と白の乱れ咲き――『詩経』小雅・裳裳者華

黄は日本語の「き」に当たる色の名である。古典漢語ではɦuang(呉音ではワウ、漢音ではクワウ)という。これを代替する視覚記号として黃が考案された。古人は「黄は晃なり」と語源を説いている。晃だけではなく光・皇・広などとも同源で、←→の形が上下左右に延びるイメージ、すなわり「四方に広がる」「四方に発散する」というイメージがある(533「光」、554「皇」、530「広」を見よ)。黄色から受ける印象(感覚、心理的イメージ)を「(光のように)四方に発散する」というイメージで捉えて、ɦuangと命名したのである。これを視覚記号化したのが黃である。
黃の字源については諸説紛々で定説はないが、加藤常賢が「炗(=光)+矢」と分析し、火矢の象形と解釈したのが妥当である。「黄の黄色の意は火矢の火色から来ている」と加藤は述べる(『漢字の起源』)。ただ字形から意味が出たとする点では白川説と変わらない。
火の色がモデルになった漢字に「赤」がある。「黄」は火の色だとしても特殊である。何かを材料にして矢の先端につけて燃やして飛ばしたときの色である。これは「四方に発散する」というイメージがぴったり。では何を材料にしたのか。火薬は後世のものである。何かの化学物質かもしれない。あるいは炗(=光)の上部の「廿」は革(獣の革)に共通の記号なので、動物性の油脂の類かもしれない。ただしこれが黄色に燃えるかの確証はない。