「硬」

白川静『常用字解』
「形声。音符は更。更は丙(台座)を殴って変更するの意味がある。更にかたい石を加えて、簡単に変更しがたいことを示した字であろう」

[考察]
更に「台座を殴って変更する」という意味があるだろうか。そもそも「台座を殴って変更する」とはどういうことか。更はただ「(新しいものに)変える」という意味である。また、「台座を殴って変更する」の意味の更に石を加えると「簡単に変更しがたい」という意味になるだろうか。そもそも硬にそんな意味があるだろうか。この字源説は納得しがたい。
白川漢字学説には形声の説明原理がない。会意的に解釈しようとするから、あり得ない意味が出てくる。意味とは言葉に内在する概念であって字形に属する概念ではない。言葉という視点から漢字を見ることが大切である。硬はどんな文脈で使われているかを調べて、意味を確定し、それから成り立ちを見るべきである。これを逆転させて字形から意味を求めると間違いが起こる。硬は次の用例がある。
 原文:大則皮厚肉硬。
 訓読:大なれば則ち皮厚く肉硬し。
 翻訳:大きくなると皮が厚くなり肉がかたくなる――『斉民要術』巻八
硬はかたくこわばる、こわばってかたいという意味で使われている。この字は先秦の古典にはなく、六朝時代の文献に初出。
比較的遅く創作された字であるが、造形法は漢字の原理に反していない。漢字の造形法とは言葉の意味のイメージを図形化するというものである。硬は梗・哽・粳・鯁など更のグループに倣って造形されている。更がコアイメージを表す基幹記号である。それは「ぴんと張ってたるみがない」というイメージである(544「更」を見よ)。「更(音・イメージ記号)+石(限定符号)」を合わせた硬は、石のようにかたく張り詰めてこわばる状況を暗示させる。この図形的意匠によって上記の意味をもつ言葉を表記した。石は比喩的限定符号であって意味の中には含まれない。