「項」

白川静『常用字解』
「形声。音符は工。工は工作の道具の形で、叩き台などに用いる。そのように頑丈に上を支える力のあるところ、身体ではうなじを項という」

[考察]
工(工作の道具)を叩き台に用いるだろうか。叩き台から「頑丈に上を支える力のあるところ」の意味になるだろうか。頑丈に上を支える所は「うなじ」であろうか。
いろいろな疑問点が浮かぶ。
字形から意味を導こうとするから、工作→叩き台→頑丈に上を支える所→うなじと意味を展開させるが、意味展開に必然性・合理性があるとは言い難い。
言葉という視点に立ち、言葉の深層構造に目を向けて、意味を考えるべきである。否、意味はすでに分かっていることである。古典に使用される文脈から意味は知ることができる。工は次の用例がある。
 原文:與之兩矢、使射呂錡、中項伏弢。
 訓読:之に両矢を与へ、呂錡を射しむ、項に中(あた)り弢トウに伏す。
 翻訳:彼に二本の矢を与え、呂錡を射させた。矢がうなじに当たり、弓袋に倒れ伏した――『春秋左氏伝』成公十六年

項はうなじ(首の後頭部)の意味で使われている。これを古典漢語ではɦŭng(呉音ではゴウ、漢音ではカウ)という。これを代替する視覚記号が項である。
項は「工(音・イメージ記号)+頁(限定符号)」と解析する。工は上下の二線の間を縦の一線が突き通ることを示す象徴的記号で、「突き通る」というイメージを示す記号になる(525「工」を見よ)。このイメージは「縦に筋が通る」というイメージに展開する。したがって項は頭部と胴体の間を縦に通って筋をなした形状の部分、首筋を暗示させる。この図形的意匠によって上記の意味をもつɦŭngを表記する。