「剛」

白川静『常用字解』
「会意。岡は鋳物を作るときに使う鋳型を土で作り、下から火を加えて焼き固める形で、堅い鋳型をいう。その鋳型を鋳込んだあと刀を使って裂く形が剛であるが、鋳型を堅くて容易に裂くことができないので、剛には“かたい、つよい”という意味がある」

[考察]
綱と鋼では岡を音符とする形声としているが、剛を会意とするのは不統一である。岡の解釈の疑問については綱・鋼で述べた。本項では、堅い鋳型を刀で切り裂くのが剛だという。なぜ鋳型を切り裂くのか訳が分からない。鋳型は堅くて容易に切り裂けないから剛は「かたい・つよい」の意味になったという。意味の導き方も安易である。
字形から意味を引き出そうとするところに無理がある。そもそも字形に意味を求めることが間違いである。意味とは言葉の意味であって字形に属する概念ではないからである。
剛は次のような文脈で使われている。
①原文:弱之勝強、柔之勝剛、天下莫不知。
 訓読:弱の強に勝ち、柔の剛に勝つは、天下知らざるもの莫し。
 翻訳:弱さが強さに勝ち、柔らかさが固さに勝つことは、世界中の人が知っている――『老子』第七十八章
②原文:及其壯也、血氣方剛。
 訓読:其の壮に及ぶや、血気方(まさ)に剛(つよ)し。
 翻訳:壮年に達する頃、ちょうど血気が強くなる――『論語』季氏

①は物理的に丈夫で固い意味、②は身体的・精神的に強い(強くて盛んである)の意味に使われている。これを古典漢語ではkang(呉音・漢音でカウ)という。これを代替する視覚記号が剛である。
剛は「岡コウ(音・イメージ記号)+刀(限定符号)」と解析する。岡は「筋張ってかたい」というイメージを示す記号である(577「綱」、582「鋼」を見よ)。剛は筋金の入ったような刀を暗示させる。これは図形的意匠であって意味ではない。意味は「がっしりとして固い」である。