「黒」
正字(旧字体)は「黑」である。

白川静『常用字解』
「会意。柬と火とを組み合わせた形。柬は東(橐ふくろ)の中にものがある形。これに下から火を加えて、橐の中のものを焦がして黒くする、あるいは黒い粉末にすることを示し、“くろ、くろい” の意味となる」

[考察]
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。東(ふくろ)+火→袋の中の物を焦がして黒くする(黒い粉末にする)→くろという意味に展開させる。
物が入っている袋に火を加えて焦がすというが、中のものを焦がす前に袋自体が燃えるのではないだろうか。不自然な状況である。
黑の字形分析に問題がある。白川は「柬+火」としたが、柬は練・煉・闌などに含まれ、束の中に八の符号を入れた形である。黑の上部とは似ても似つかぬ形である。黑は「A+炎」と分析すべきである。
 A=囗の中に小(三つの小点)の入った形。もっと古くは※(米印)の入った形。
Aは煤が点々とついた竈あるいは煙突の形である。単独に存在する字ではない。これに炎を合わせた黑は、火を燃やした後に煤が生じる情景を設定した図形である。
黒色を古典漢語ではhək(呉音・漢音でコク)という。古人は「黑は晦(くらい)なり」という語源意識を持っていた。また海・悔・灰・煤とも同源である。「暗い」という感覚と、くろ色から受ける印象は非常に近い。だから竈や煙突に生じる煤の色からhəkと造語され、黑という図形が考案された。
ちなみに英語のblackは印欧祖語の*bhleg-(燃える)に淵源があり、「煤で黒くなった」が原義という(『スタンダード英語語源辞典』)。くろ色の発想(名づけ)が東西で似ているとは驚くが、言語の普遍性の証拠かもしれない。