「酷」

白川静『常用字解』
「形声。音符は告。説文に“酒味厚きなり” とあって、酒の味が濃厚なことをいう」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく、すべて会意的に説く特徴がある。本項では会意で説明できないので字源を放棄している。
酷は古典で次の用例がある。
 原文:酸而不酷。
 訓読:酸にして酷ならず。
 翻訳:味はすっぱいがきつくはない――『呂氏春秋』本味
酷は味や香りが激しく盛んである(激しい・きつい)という意味で使われている。これを古典漢語ではk'ok(呉音・漢音でコク)という。これを代替する視覚記号として酷が考案された。
酷は「告(音・イメージ記号)+酉(限定符号)」と解析する。告は牛の角に枠をつけて縛る図形で、「縛る」というイメージを表す記号になりうる(591「告」を見よ)。このイメージは「きつく締めつける」というイメージにもなる。酉は酒に関係があることを示す限定符号。限定符号の役割は意味の領域を指定するほかに、図形的意匠を作るための場面設定の働きもある。したがって酷は酒の味が舌を締めつけるほどきつい状況を設定した図形である。この意匠によって上記の意味をもつk'okを表記する。
限定符号に囚われると「酒の味が濃厚である」という意味になってしまうが、必ずしも酒に限定されるわけではない。限定符号を「意符」(伝統的用語)として「意味を表す符号」と取ると、漢字の本質を見失ってしまう。音・イメージ記号が意味の根幹に関わる部分である。