「困」

白川静『常用字解』
「象形。囗の形の枠の中に木をはめて、出入りを止める門限(門のしきみ)の形。閫(門のしきみ)のもとの字である。門に止め木を設置して出入りを禁止することから、困は進退に“くるしむ、こまる” の意味となる」

[考察]
門のしきみ(敷居)は門の下部で端から端に渡した横木である。困はこれの象形文字には見えない。また、敷居は出入りを禁止するものではあるまい。敷居の形から「進退にくるしむ」の意味を導くのは無理である。
困は「 囗+木」に分析できるから会意とすべきである。「囗(周囲を取り囲む、取り巻く)+木」を合わせて、木をぐるぐる巻きにして縛る情景を設定したのが困である。梱包の梱(ぐるぐる締めて縛る)に「締めつけて縛る」というイメージが生きている。困の図形的意匠によって、にっちもさっちも行かない、身動きが取れず苦しい(苦しむ)という意味の古典漢語k'uən(呉音・漢音でコン)を表記する。
困は古典で次のように使われている。
①原文:困而學之、又其次也。
 訓読:困(くる)しみて之を学ぶは、又其の次なり。
 翻訳:行き詰まって学ぶのは、[学問としては]その次のランクだ――『論語』季氏
②原文:四海困窮。
 訓読:四海困窮す。
 翻訳:全世界が貧窮している――『論語』尭曰

①は行き詰まってにっちもさっちも行かない(身動きが取れず苦しい)の意味、②は物が乏しくて生活に行き詰まる意味である。