「墾」

白川静『常用字解』
「形声。音符は貇。貇のもとの字は豤に作り、豕はいのこ(猪)。艮には人に呪いをかける呪眼によって進むことを遮られて、にくむ、いかるの意味がある。猪が怒りたけって牙で土を掘りかえすことを墾という」

[考察]
形声の説明原理がなくすべて会意的に説くのが白川漢字学説の特徴である。艮(にくむ、いかる)→猪が怒って牙で土を掘り返すという意味を導く。
艮に「にくむ」「いかる」の意味があるというが、こんな意味はない。艮は「止まる」という意味で古典に使われている。図形的解釈と意味を混同するのが白川漢字学説の特徴である。その結果、余計な意味素が意味に紛れ込む。墾に「猪が怒る」や「牙」は余計である。墾はただ「土を掘り返す」の意味である。
墾は次のような文脈で使われている。
 原文:農民不敗則草必墾矣。
 訓読:農民敗れざれば則ち草必ず墾せん。
 翻訳:農民が負けなければ草地は必ず開墾されよう――『商君書』墾令
墾は荒れ地を耕して開く意味で使われている。これを古典漢語でk'ən(呉音・漢音でコン)という。これを代替する視覚記号として墾が考案された。
「貇コン(音・イメージ記号)+土(限定符号)」よ解析する。貇は豤が変わった字体。豤は「艮(音・イメージ記号)+豕(限定符号)」と分析する。艮は目(のまわり)にメスで傷をつける情景を設定した図形である(252「眼」を見よ)。「傷をつけて痕を残す」というイメージのほかに、その行為の前提である「深く差しこむ」というイメージも表すことができる。豤はイノシシ(またはブタ)が深くかんで歯のきず痕をつける状況を暗示させる。これに土を添えた墾は、農具を土中に深く差し込んで耕す情景を設定した図形。この意匠によって上記の意味をもつk'ənを表記する。