「詐」

白川静『常用字解』
「形声。音符は乍サ。乍は木の小枝を強く曲げて垣などを作る形で、人力を加えて、もとの形を変えることをいう。人の行為を加えて原形を変更する意味の乍に言を加え、祈りや約束において、約束ごとを変更し、人を“あざむく、いつわる” ことを詐という」

[考察]
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。乍(人の行為を加えて原形を変更する)+言→祈りや約束事において約束事を変更し人をあざむくという意味を導く。
乍に「人の行為を加えて原形を変更する」という意味があるだろうか。647「作」の項では乍は作の原字で、「木の枝を曲げて家の垣などを作ることをいう」とある。不統一である。会意的に解釈するため、詐も「祈りや約束において、約束ごとを変更し」という余計な意味素が入り込む。
詐の用例を古典に尋ねて、意味を捉えよう。意味は文脈で使われる意味であって、字形から出てくるものではない。
 原文:今之愚也詐而已矣。
 訓読:今の愚や詐サなるのみ。
 翻訳:現代の愚[融通の利かない人間]は人をあざむくだけだ――『論語』陽貨
詐はうそを言って人をだます(あざむく・いつわる)の意味で使われている。これを古典漢語ではtsăg(呉音ではシャ、漢音ではサ)という。これを代替する視覚記号が詐である。
詐は「乍サ(音・イメージ記号)+言(限定符号)」と解析する。乍は刃物で∨形や∧形の刻み目をつける様子を示す図形で、素材に切れ目を入れることを暗示させる。「素材に切れ目を入れる」というイメージから「自然の物にわざと手を加える」というイメージにも展開しうる。かくて詐は言葉にわざと手を加えて、いつわったことを言う状況を暗示させる図形。この図形的意匠によって上記の意味をもつtsăgを表記する。
「手(人工)を加える」から「いつわる」への意味展開は、為(作る、なす)→偽(いつわる)への意味転化と似ている。