「砕」
正字(旧字体)は「碎」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は卒。卒は人が死んだとき、死者の霊の脱出を防ぎ悪霊が入りこむのを防ぐために、死者の衣の襟もとを重ねて結びとめた形である。この字は石を打ち砕くときの音が卒の音に近いために、擬声的にその音を用いたものであろう。もと“石をくだく”の意味」

[考察]
形声の説明原理をもたず会意的に解釈するのが白川漢字学説の特徴である。卒の説明をしながら碎の意味と結びつかないため、結局卒を擬音語を写したものとしている。石が砕ける音はソツなのかサイなのかもはっきりしない。だいたい碎に「石をくだく」という意味はない。限定符号を重く見るから「石をくだく」の意味としたが、限定符号は必ずしも意味素に入るとは限らない。
形声文字は言葉の深層構造に掘り下げて語源的に意味を究明する方法である。形声文字は「A(音・イメージ記号)+B(限定符号)」から成り立つ。Aが言葉の深層に関わる基幹記号であり、コアイメージを表す部分である。Bは言葉の意味が何と関わるかを指定する限定符号である。ただし限定符号は図形的意匠を作るための場面を設定する働きもあり、意味素に入らないことが多い。
碎は古典に次の用例がある。
 原文:毀首碎胸。
 訓読:首を毀(こぼ)ち胸を砕く。
 翻訳:頭を打ちこわし胸をくだく――『荘子』人間世
碎はこわして小さくばらばらにするという意味で使われている。これを古典漢語ではsuad(呉音・漢音でサイ)という。これを代替する視覚記号が碎である。
碎は「卒ソツ(音・イメージ記号)+石(限定符号)」と解析する。卒は小さくまとまった集団のことから、「小さい」「細かい」というイメージを示す記号になる(「卒」で詳述)。碎は石に関する場面を想定した図形で、石をこわして小さく散り散りにする情景を暗示させる。これが碎の図形的意匠で、これによって上記の意味をもつsuadを表記するのである。石に関する具体的な場面を作り出して図形化し、具体は捨象して、「くだく」という抽象的な意味を暗示させる仕掛けである。