「栽」

白川静『常用字解』
「形声。音符は𢦏サイ。𢦏は戈が作られたとき、その刃の上に才(神聖な標しるし)をつける形で、ものを祓い清め、ことを始めるという意味がある。おそらく儀礼としての植樹が行われることをいうのがもとの意味であったのであろう」

[考察]
戈の刃先に神聖な標(印)をつけるとはどういうことか。𢦏に「物を祓い清め、事を始める」という意味があるだろうか。『説文解字』では「𢦏は傷なり」としている(『漢語大字典』には「傷害」とある)。
字形から意味を導くのが白川漢字学説の特徴である。言葉という視座がないため、字形から余計な、余分な情報を引き出す傾向がある。結果として意味に余計な意味素が混入したり、あり得ない意味が作り出される。「儀礼としての植樹」は才を神聖な標木とすることから、あり得ない意味が引き出された。
栽は古典に次の用例がある。
 原文:栽者培之。
 訓読:栽(う)うる者は之を培(つちか)ふ。
 翻訳:植えた草木はつちかって育てる――『礼記』中庸
栽は草木を植えるという意味で使われている。これを古典漢語ではtsəg(呉音・漢音でサイ)という。これを代替する視覚記号が栽である。
栽は「𢦏サイ(音・イメージ記号)+木(限定符号)」と解析する。𢦏については636「裁 」で詳しく分析する。結論を先に述べると、𢦏は「程よく断ち切る」というイメージを示す記号である。したがって栽は木の枝葉を適宜に切って育てる状況を暗示させる。この図形的意匠によって上記の意味をもつtsəgを表記する。