「斎」
正字(旧字体)は「齋」である。

白川静『常用字解』
「会意。齊セイの省略形と示とを組み合わせた形。齊(斉)は祭祀に奉仕するときの三本の簪を立てて並べている婦人の髪飾り。示は祭りのときに使う机の祭卓。祭卓の前で祭祀に奉仕することを齋という。それで齋は“ものいみ、つつしむ” の意味となる」

[考察]
齊と齋は明らかに音のつながりがあるから形声のはず。白川漢字学説には形声の説明原理がなくすべて会意的に説く特徴がある。会意とはAの意味とBの意味を足し合わせた「A+B」をCの意味とする手法である。AとBは同じレベルの価値をもつ字とされている。だから齊(祭祀に奉仕する婦人の髪飾り)+示(祭卓)→祭卓の前で祭祀に奉仕するという意味を導く。ただ婦人が消えているのはどういうわけか。
会意的手法による字源説は図形的解釈がストレートに意味とされる。図形的解釈と意味の混同が著しい特徴である。「祭卓の前で祭祀に奉仕する」は図形的解釈であって意味ではあるまい。
齋は古典で次のように使われている。
 原文:必三月齋。
 訓読:必ず三月斎す。
 翻訳:必ず三か月の間物忌みをする――『韓非子』外儲説左上
齋は祭りの前に心身を清めるという意味で使われている。これを古典漢語ではtsĕr(呉音でサイ、漢音でセイ)という。これを代替する視覚記号が齋である。
齋は「齊の略体(音・イメージ記号)+示(限定符号)」と解析する。齊が言葉のコアイメージと関わる記号である。これが言葉の重心であり、中心をなす。示は限定符号で、補助的、従的な記号。限定符号は意味が何と関わるかを指定するだけで、必ずしも意味素に含まれない。齊は「同じようなものが等しくそろっている」というイメージがある(630「済」を見よ)。これは「きちんと整える」というイメージにも展開する。示は神と関係があることを示すための限定符号。したがって齋は祭りを準備するるために身の周りの雑然としたものをそろえて整える情景を設定した図形。この図形的意匠によって上記の意味をもつtsĕrを表記する。