「債」

白川静『常用字解』
「形声。音符は責。責は賦貢(税)の納入を求めることをいう。債はもと賦貢の納入義務のあることをいう語であった。のち貸借関係によって、支払い義務のある負債(借り)をいう」

[考察]
責が「税の納入を求める」の意味で、債が「税の納入の義務がある」の意味だという。「責」の項では賦貢(税)の意味だとしている。責にそんな意味があるだろうか。責にも債にも税と関わる意味はない(『漢語大字典』『漢語大詞典』)。
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。責も債も字形から引き出された意味であろう。
意味は言葉の使い方からしか出てこない。債の用例は次の通り。
 原文:邑之貧人債而食者幾何家。
 訓読:邑の貧人、債して食する者幾何(いくばく)の家ぞ。
 翻訳:邑の貧乏人で、借金して飯を食っているものは何軒あるか――『管子』問
債は借金、また借金するという意味で使われている。債は税とは関係なく、最初から借金の意味である。
債は「責(音・イメージ記号)+人(限定符号)」と解析する。責は財貨が雑然と積み重なる情景を設定した図形で、「積み重なる」というイメージがある(1051「責」で詳述)。この意匠によって「積み重なって返済を求められる借金」と、「(返済するように求めて)責め立てる」という二つの意味を表すことができる。前者をtsĕg(呉音ではセ、漢音ではサイ)、後者をtsĕk(呉音ではシャク、漢音ではサク)という。表記する際、前者には債も考案された。責と債は同源で、音が少し変わった語である。