「催」

白川静『常用字解』
「形声。音符は崔。崔は崔嵬のように山の高くけわしい様子をいう語であるが、何か人に迫るような力があるのであろう。催す、摧(くだ)くのように、音符が崔の字にはみな強く迫るという意味がある。催は“もよおす、うながす” の意味に用いる」

[考察]
崔に「強く迫る」という意味があるというが、山が高く険しいことがそのような意味になるというのであろうか。『説文解字』には「崔は高大なり」とある。崔崔は『詩経』に「南山崔崔たり」という用例があり、高く険しくそびえるさまという意味で使われている。しかし「強く迫る」という意味はない(『漢語大字典』『漢語大詞典』)。
白川漢字学説では崔から催への意味展開に合理性がない。隹→崔→催と順を追って説明すべきである。
催は「崔(音・イメージ記号)+人(限定符号)」と解析する。崔は「隹スイ(音・イメージ記号)+山(限定符号)」と分析できる。隹が言葉の深層構造に関わる部分であり、コアイメージの源泉である。
隹はとりの形であるが、鳥(尾の長い特徴を捉えたとり)に対して、尾が短く、ずんぐりと丸みを帯びているという特徴を捉えた語であり、図形である。これによって「ずっしりと重い」や、「上から下に↓の形に重みをかける」というイメージを表すことができる(27「維」を見よ)。視点を↓の方向から↑の方向に変えると、このイメージは「下から上に↑の形に突き上げる」というイメージに転化する。だから崔は山が↑の形(あるいは⋀の形)に突き上がっている、つまり高くて険しい情景を暗示させる。「突き上げる」は「突き進む」のイメージにもつながる。↑や↓は垂直のイメージだが、視点を水平軸に変えると、「→の形に推し進める」というイメージにも転化するからである。推進の推はこのイメージである。
かくて催の図形的意匠が明らかになる。すなわち、人を突き上げて何らかの行動に推し進める状況というのがそれである。この意匠によって「せき立てる(うながす)」という意味をもつ古典漢語ts'uər(呉音ではセ、漢音ではサイ)を表記する。催促の催はこれである。もよおす(そうする気持ちになる)という意味はその転義である。