「歳」
正字(旧字体)は「歲」である。

白川静『常用字解』
「会意。古い字形は戉(鉞)の形。今の字形は戉と歩(步)とを組み合わせた形。歳はもと戉(鉞)で肉を切って祭る祭祀の名で、おそらくその祭祀が年一回行われたので、その祭祀をもって年を数えたのであろう」

[考察]
「鉞で肉を切って祭る祭祀」というが、鉞で肉を切る祭りとは何のことか。肉は鉞で切るものであろうか。鉞・肉・祭りの関係に必然性があるとは思えない。またその祭りが年一回行われるというのも根拠がない。この字源説には合理性がないと言わざるを得ない。
甲骨文字では鉞に似た鎌を描いた図形と、それに步を合わせた図形の二形がある。篆文では「戌+步」の字体となっている。戌は武器であるが、鎌のような用途もある。鎌などの刃物は作物を刈り取る道具である。武器や刃物は実体に重点があるのではなく機能に重点がある。刈り取るという働き(作物の収穫)に焦点がある。これによって一年という周期を暗示させるのである。戌に步(あゆむ)を添えた歲は、時間が進行して作物を収穫する時期になった状況を暗示させる図形である。この図形的意匠によって「一年」「とし」「としつき」を意味する古典漢語siuad(呉音ではサイ、漢音ではセイ)を表記した。古典に次の用例がある。
①原文:蟋蟀在堂 歲聿其莫
 訓読:蟋蟀堂に在り 歳聿(ここ)に其れ莫(く)れん
 翻訳:こおろぎが座敷に入ってきた 一年がこうして暮れようとする――『詩経』唐風・蟋蟀
②原文:歲不我與。
 訓読:歳、我と与(とも)にせず。
 翻訳:としつきは私を待ってくれない――『論語』陽貨

①は一年の意味、②はとしつき(年月、時間)の意味である。また①には年齢を一歳、二歳と数える助数漢字の用法もある。