「載」

白川静『常用字解』
「形声。音符は𢦏サイ。𢦏は戈の刃の上に才(神聖な標しるし)をつける形で、ものを祓い清め、ことを始めるという意味がある。載はおそらく兵車を祓い清める儀礼で、軍が出発するときに実施したのであろう。それで“はじめる、はじめ”の意味となり、始めることがすなわち載(おこな)うことであるから、“おこなう”の意味となる」

[考察]
字形の解釈の疑問については636「裁」でも述べた。𢦏に「物を祓い清め、事を始める」という意味はないし、載に「兵車を祓い清める儀礼」という意味もない。意味とは言葉が文脈で使われるときの意味である。それ以外に意味はない。上記の意味は字形から引き出されたものであろう。図形的解釈と意味が混同されている。
また白川説では「のせる」の意味を説明することができない。
古典における用例を見てみよう。
①原文:輶車鸞鑣 載獫歇驕
 訓読:輶車ユウシャ鸞鑣ランヒョウ 獫レンと歇驕ケッキョウを載す
 翻訳:軽車のくつばみと鈴が鳴る 載せるは口の尖った犬と鼻面の短い犬――『詩経』秦風・駟驖
②原文:今我來思 雨雪載塗
 訓読:今我来るとき 雨雪塗(みち)に載(み)つ
 翻訳:今いくさから帰るとき 雨と雪が道にいっぱい――『詩経』小雅・出車

①は車などの上にのせる意味、②は満ちる意味で使われている。これを意味する古典漢語がtsəg(呉音・漢音でサイ)である。これを代替する視覚記号として載が考案された。
載は「𢦏サイ(音・イメージ記号)+車(限定符号)」と解析する。𢦏は「才(音・イメージ記号)+戈(限定符号)」と分析する。才は流れをせき止める図形で、「途中で断ち切る」というイメージがある(621「才」を見よ)。𢦏も同じイメージを表す記号である(636「裁」を見よ)。このイメージを図示すると―↓―の形、あるいは→|の形である。これは「程よい所で→|の形に止める」というイメージにも展開する。載は荷物が落ちないように車の箱でせき止める情景を設定した図形である。この図形的意匠によって、車などの上にのせてじっと止めておくこと、つまり「載せる」ことを意味するtsəgを表記する。
一定の枠の中に載せることから、その枠いっぱいに満ちるという意味を派生する。これが②の用法である。